表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『バグったうさぎを修正できません』 ――ブラック企業の天使がヤケクソで転生させた結果――  作者: 島ながぁ
第一章︰名無しの王女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/65

第15話うさぎとバグ姫

 閃光。


 遅れて衝撃。


 大気を殴りつけるような轟音と共に、車体が大きく跳ねた。


「うおっ!?」


 ハンドルを握るうさぎの身体がシートに叩きつけられる。積んでいた缶詰が車内を跳ね回り、荷台に積まれていた野菜が宙を舞った。


 バックミラーの向こう。


 そこに広がっていたのは―――この世の終わりみたいな光景だった。


 巨大なきのこ雲。


 黒煙はただ空へ伸びているだけじゃない。生き物みたいに蠢きながら広がり、空そのものを侵食している。


 雲の内側では赤黒い稲光が暴れ回り、地鳴りのような低音が腹の底を震わせていた。


「……っ」


 うさぎは歯を食いしばる。


 見なくてもわかる。


 終わっている。


 あの村は。


「クソッ……!」


 車に乗りこみ。


  エンジンを始動する。


 タイヤが悲鳴を上げる。


 白と黒の車体が大きく滑りながら半回転し、後輪から白煙を噴き上げた。


 そしてそのまま急加速。


 先程まで居た村へ向かい、うさぎはアクセルを踏み込む。


 エンジンが猛獣の咆哮みたいな音を響かせた。


 農園地帯へ入る。


 そこは既に地獄だった。


 作物はなぎ倒され、地面は焼け焦げ、あちこちで火が上がっている。


 炎に包まれながら暴れるボレムチチ(バロメッツ)が、甲高い悲鳴を撒き散らしていた。


『メ゛ェェェェエエエエエ!!』


「……っ」


 うさぎは視線を逸らし、さらにアクセルを踏み込む。


 見たくなかった。


 だが、見えてしまう。


 焼けた地面。


 崩れた畑。


 炭化した何か。


 看板も何も消し飛び、どこが村だったのかすら分からない。


「ここ、だよな」


 勘だけを頼りに、領主の家があった辺りへ車を進める。


 その途中。


 うさぎは違和感に気付いた。


 地面に妙な岩が転がっている。


 大小様々。


 形も不自然。


 その中の一つが―――人の顔に見えた。


「ひ、人の顔に見える何とか現象ってやつか」


 乾いた声が出る。


 自分でも分かっていた。


 誤魔化しているだけだ。


 嫌な既視感が脳裏を掠める。


 だが、うさぎは無理やり思考を逸らした。


 車内から周囲を見回す。


 誰も居ない。


 焼けた地面。


 崩れた円卓。


 黒く煤けた豪華な椅子。


 その時。


 陽光を反射する何かが視界に入った。


「……」


 地面に落ちていたのは、溶けかけた銀食器だった。


 昨日まで使われていたもの。


 昨日まで、そこに人がいた証拠。


「朝飯…食ってなかったな」


 思わず口から零れる。


 自分でもふざけていると思った。


 腹は減っている。


 でも、そんな気分じゃない。


 なのに、何か喋っていないと正気を保てそうになかった。


「聞いてたよりクズだな…あの女神」


 低く呟く。


 その時だった。


 一際大きな岩陰。


 その影に誰かが倒れているのが見えた。


「!」


 車を飛び降りる。


 駆け寄る。


 そこに居たのは―――姫だった。


 服は焼け焦げ、ところどころ裂けている。


 だが、それ以上に異常だったのは。


 身体が“ブレていた”。


 砂嵐の映像みたいに、輪郭が時々乱れる。


 映像がノイズを起こしているみたいに。


 意味が分からない。


 うさぎには“ブレている”としか表現できなかった。


「生きてる?」


 しゃがみ込む。


「姫?おい…!」


 耳を近づける。


 息はある。


 その直後。


 姫の瞼がゆっくり開いた。


「……」


 ぼんやりした目で辺りを見回す。


「ここは…?」


「何があった?」


 うさぎの問いに、姫はゆっくり首を振った。


「分かりません」


 そして。


 周囲を見回しながら、不安そうに呟く。


「皆さんはどちらに……?」


「領主さんも、先程まで隣に居たのに…」


「!」


 その瞬間。


 うさぎの中で嫌な予感が確信へ変わった。


 さっきの岩。


 人の顔に見えた岩。


 あれは気のせいじゃない。


 昔、学校で見た資料。


 火山災害の映像。


 人だったもの。


「……っ」


 胸糞が悪い。


 胃の奥が捻れる。


 吐き気が込み上げた。


 でも。


 今それを言うわけにはいかなかった。


「…俺が来た時には、誰もいなかったよ」


 苦し紛れの嘘。


 姫は静かに目を伏せた。


「そう、ですか」


 その顔は、どこか思い詰めているように見えた。


 もしかしたら。


 彼女はもう気付いているのかもしれない。


 街の人たちがどうなったのか。


「とりあえずここから移動しよう」


 うさぎはそう言って立ち上がる。


「…姫?」


 だが、姫は動かなかった。


 静かに岩へ向き直る。


 そして。


 両手を胸の前で重ね、祈りを捧げ始めた。


「……」


 風が吹く。


 遠くで雷鳴が響く。


 うさぎは何か声を掛けようとして―――やめた。


 かける言葉が見つからない。


 今の自分に言えることなんて、何も無かった。


 だから。


 ただ待った。


 雷鳴と風の音だけが、焼けた村を吹き抜けていた。


 ―――続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ