第13話うさぎは魔法の存在を知る。
数日後。
変な村の様な街。
朝。
晴れ渡る青空の下。
枝を組み損ねたような原始的集落の中央で、場違いにもほどがある豪華な円卓が朝日に輝いていた。
金の装飾。
大理石の天板。
真っ白なクロス。
銀食器。
高級ホテルの貴族向け朝食会みたいな空間。
背景だけが圧倒的に原始時代だった。
「もう慣れてきた自分が怖いな……」
円卓に腰掛けたうさぎ――佐伯優兎は、運ばれてくる朝食をぼんやり眺めていた。
給仕をしているのは、黒と白の給仕服を着た女性。
普通だ。
めちゃくちゃ普通。
逆に怖い。
「……こんな村のどこにいたんだ?」
ゴリラしか見てないんだが。
そんな事を考えていると。
ふわり。
香ばしい匂いが漂ってきた。
「……ん?」
ソース。
鰹節。
青のり。
鼻に刺さる馴染み深い香り。
だが。
運ばれてきた料理を見て、うさぎは固まった。
「……何だこれ」
分厚いパンケーキ。
山盛りのクリーム。
メープルシロップみたいな何か。
完全に映え系スイーツ。
なのに。
匂いだけが完全に粉物。
「……まぁ食うけど」
フォークで切る。
ふわふわ。
中からとろりとしたクリームが溢れる。
一口。
もぐもぐ。
「……」
口の中に広がる。
小麦。
ソース。
鰹節。
青のり。
そして。
クリームっぽいマヨネーズ。
「お好み焼きじゃん」
思わず真顔になる。
「乙女ゲーかと思ったら急に関西かよ」
さらに一口。
うまい。
めちゃくちゃうまい。
「展開速度リニアより速ぇなこの世界……」
ガツガツ食べる。
もう見た目にツッコむのも疲れてきた。
美味ければいい。
そう。
美味ければ。
「……」
完食。
うさぎは満足そうに背もたれへ体を預けた。
「腹は膨れたけど暇だなぁ」
やることがない。
騎士様などと呼ばれているが、別に戦うわけでもない。
敵も来ない。
魔物も来ない。
ご飯は勝手に出てくる。
何なんだここ。
「……」
「何しよっかなぁ」
その時だった。
「あ」
うさぎは思い出した。
「そういや……」
席を立つ。
向かう先は、あの白と黒の車。
街の端に停められた、異世界にあるまじきスポーツカーだった。
ドアを開ける。
シートへ座る。
うさぎはメーター類を確認した。
「……やっぱ無いよなぁ」
燃料計。
存在していなかった。
ゼロではない。
メーターそのものが無い。
「どういう構造してんだこれ……」
スタートキーを押す。
低いエンジン音。
車体が小さく震えた。
うさぎはスイッチを操作する。
ガコン。
エンジンルームロック解除音。
外へ出る。
近くの木箱へ乗り、エンジンルームを開いた。
「……」
「わけがわからん」
見た目は知っている。
昔ネットや雑誌で見た高性能エンジン。
だが。
おかしい。
光っている。
内部を走る管。
脈打つ赤い光。
まるで血管。
鼓動する生物みたいだった。
「機械……だよな?」
その時だった。
「どうされたのですか?」
振り向く。
姫だった。
今日もにこにこしている。
「ん? ちょっと気になる事があってさ」
「ガソリンってある?」
「がそりん?」
姫は首を傾げた。
「聞いたことのない名前です」
「……無いかぁ」
やっぱりか。
「この車の燃料が分からなくてさ」
説明しても伝わらない気がした。
だが。
姫は不思議そうに車を見る。
「燃料ですか?」
「ありませんよ?」
「……は?」
うさぎは固まる。
「いやいやいや」
「燃料無かったら走らんだろ」
姫はきょとんとしていた。
「この車に燃料というものはありませんよ?」
「どゆこと?」
すると。
姫は突然。
すらすらと語り始めた。
「特殊合金製の軽量高剛性フレームを採用」
「内蔵障壁によりタイヤの摩耗を軽減」
「自動吸収機能により魔力消費を抑制」
「高級オーディオ搭載」
「高級本革製内装」
「最高速度―――」
「最大出力―――」
「……は?」
うさぎは真顔になった。
「なんで知ってるの?」
姫は口を止める。
「……へ?」
今度は姫が固まった。
「そう言えば私……」
「車なんて見たこと無かったはず……」
沈黙。
数秒。
そして。
「分かりません!」
満面の笑み。
「怖ぇよ!!」
うさぎは叫んだ。
なんなんだこの姫。
ゲームのアイテム説明みたいな事を突然喋り始めたぞ。
しかも本人に自覚がない。
「……」
うさぎは改めて考える。
女神。
廃墟。
文字化け。
突然現れる村。
ボレムチチ。
地面に埋まる王女。
車をすり抜ける王女。
そして。
勝手に表示されるカタログスペック。
「……」
もしかして。
「この世界の中でも……」
「この姫、結構ヤバいんじゃないか?」
今更だった。
―――続く




