120話 勇者が死んだ
「おい! そこの魔族! 何をしている! 悪さをしているのなら、この勇者ユーリが許さない……!」
ユーリは声高らかにそう叫んだ。しかも五芒星であるシエスタに向かって、丁寧に自らが勇者だと明かした上で。
――何やってんのコイツは……!?
馬鹿なの!? 死ぬの!?
俺は開いた口が塞がらなかった。
セリーヌとリリィとボンズは口を大きく開け唖然とし、俺の横にいたスカーレットとゴラムはため息混じりに頭を抱えていた。
「何じゃお前は……。しかも何じゃ? 今、勇者と言ったか?」
俺は恐る恐る巨木の影から顔を出す。すると奥にいたシエスタは眉間に皺を寄せ目を細めてユーリを睨み付けていた。しかし勇者ユーリは怯まない。
「そうだ……! 俺は勇者ユーリ! 安心しろ! 仲間も一緒だ!」
何を安心すると言うのだろうか。
自ら仲間の存在をも明かすポンコツは自信満々に胸を張る。さすがのシエスタも困惑しているようだ。
「お前……なめているのか? 妾は魔王様の直属の配下、五芒星のシエスタじゃぞ?」
「だから何だ! ここに住む魔女やエルフが怯えているじゃないか! 俺は別に魔族が全て悪だとは思わない! だけど人を苦しめたり、悪い事をする奴は許さない!」
五芒星のシエスタを前にしても一切臆することもなく、堂々と啖呵を切る勇者ユーリ。俺は彼の放った言葉について少し思案していた。
――ユーリは今、魔族が全て悪だとは思わないと言ったか……?
前までは"魔族=全て悪"くらいの感じの事を言っていなかったか?
もしかすると、ふにゃ丸を旅に同行させた事で少し魔族についての考えが変わったのか?
だとしたら俺の計画を進めやすくなるし、とても有難い話なのだが……。
「えらく威勢のいいガキじゃのう……。じゃがお前の言うたことには一つ誤りがある」
「何だ!」
「確かに魔族は悪ばかりではない。魔王様は特に素晴らしいお方じゃ。――――じゃが! 魔族にとって人間は皆平等に悪なのじゃ! お前らが何と言おうと妾達は人間共を駆逐する!」
「なっ……!?」
俺の計画とは裏腹にシエスタはユーリの言葉に対し、声高らかに反対意見を述べた。それは俺の真意に反する最たるものだった。ユーリは驚きの声を上げる。
「はぁ……何を言い負かされてるのよ。相手は五芒星とかいう強い相手なのよ? そんな相手に一人で啖呵を切るなんて馬鹿じゃないの?」
「うぅ……セリーヌ……」
そうこうしていると、次はセリーヌが立ち上がった。ユーリを罵りつつも、心配そうにしているのが伝わってくる。するとボンズとリリィも続けて立ち上がり声を上げた。
「お、オイラも戦うっすよぉ……! リリィの故郷をこんなにして良いわけがないですから……!」
「そうだよ……。リリィの故郷をこんなにしてタダで帰れると思ったら大間違いなんだから……!」
ボンズは相変わらず怯えているようだが、リリィは目付きを鋭くさせ強気な姿勢を見せていた。
「はっ……! 何をわらわらと……。今の今まで妾に怯えて隠れておったのではないのか? そんなヤツらが妾に何が出来ると言うのじゃ。笑わせるな……クソ人間共!!」
「「「「………………」」」」
シエスタは最もな言葉を突き付ける。ユーリ達は見事に何も言い返せず俯いた。
――おいおい、負けんなよ!?
何か言い返せ……!?
俺の心の声が届いたのかユーリがおもむろに口を開いた。
「さ、さっきまでは大きな木の状態を確認していただけだ……!」
「そ、そうよ……! 木の焼け具合がどんなものか隅々まで観察していたのよ……!」
――苦しい……あまりにも苦しいぞ二人とも……。
ボンズを見てみろ。有り得ないって顔してるぞ?
「リリィはちょっとお腹が痛かっただけ……!」
「む……。お腹が痛かったクリンか? リリィ、大丈夫クリン?」
「は……? ふにゃ丸様……? 何故そこに……」
そして次にリリィが言い訳を口にした。それと同時に彼女の胸元からふにゃ丸が顔を出した。
すると流石のシエスタも少しだけ後ずさった。
――五芒星のシエスタでさえ後ずさるって、ふにゃ丸はどんだけ強い魔物だったんだよ……?
まぁ先代魔王に次いで序列二位だから当然といえば当然か。
だけど、これで互いの力量は五分くらいにはなったはずだ。
シエスタに正体がバレるわけにはいかない以上、俺とスカーレット、そしてボンズは手を出せない。
何とかユーリ達だけでシエスタを止めてくれ……!
俺は心からそう祈った。そして戦いの火蓋は突然、切って落とされる。
「お前ら……よくもふにゃ丸様を……。その方は先代魔王様に次いで序列二位の強さを誇るお方じゃぞ……。お前らがどうこう出来る相手ではないのじゃぞ!?」
「ふにゃちゃんはリリィのペット。誰にも渡さない……!」
「ふざけるなぁァァァッ……!!」
リリィがふにゃ丸の柔らかボディを力強く抱き締めると、シエスタは激昂し彼女の特性である六属性魔法の魔力を全開で解放した。それと同時にシエスタの身体を覆っていた翼も開き、露出度の高い姿が露わになる。
「ぶほぉっ……!?」
「うわっ……! なんと凄まじい……!? えへぇ……」
それに伴い、ユーリとボンズの男陣はいとも容易く鼻の下を伸ばした。セリーヌとリリィは呆れと苛立ちが半々といった表情を浮かべていた。
刹那――――シエスタは目にも止まらぬ速さで中級魔法ファイヤーアローを生成。それをユーリに向かって放った。
「下等生物が……。死ね」
「グハァッ……!」
「ユーリ……!!!」
シエスタが放った炎の矢は一瞬にしてユーリの腹部に突き刺さった――――が、矢が身体を通り抜ける寸前のところで彼はそれを手で掴んだ。
「何してるんですか、ユーリさん……!?」
「これが抜けたら俺は血がいっぱい出て多分死ぬ……。だから俺は……このまま戦うぞ……」
ユーリの行動にボンズは慌てて声を上げるも、何をしたら良いのかもわからずたじろいでいた。しかしユーリは構わず戦闘を続ける意志を示す。
「馬鹿……! そんな事したらどの道死んでしまうわよ!」
「リリィの故郷を……がはっ……! こんなにされたんだぞ……。許せるはずが……ないだろ……」
「ユーリ……!」
セリーヌはもっともな事を言うも、ユーリの正義感の前には無力だった。そんな彼をリリィは目に涙を浮かべて見つめていた。
――シエスタの美貌に見とれて鼻の下を伸ばしているからだバカタレ!
と、言いたいところだが今はそんな事を言っている場合ではないな。
それにしてもただの中級魔法ファイヤーアローでユーリの腹を貫通させるとは……。
とんでもない魔力だな、シエスタの奴……。
「さて。うちのポンコツ勇者パーティーが大ピンチのようだが……。貴様ら、どうする?」
俺はそんな問いをスカーレットとゴラムに投げ掛けた。すると二人は意外な言葉を発した。
「静観――――」
「――――に決まってんだろ!」
「え……?」
俺はひどく動揺してしまった。
てっきり「助けましょう!」って流れになると思っていたからだ。
「今、俺様達が出張っていってシエスタ諸共アイツらに正体がバレるのはよくねぇんだろ?」
「いや、まぁそうなのだが……皆が心配ではないのか?」
「それは心配ですよ? ここまで共に旅をしてきたわけですから。ですが我々にとってはエル様の計画の方が大事です」
「そ、そうか……」
スカーレットとゴラムが言うことはもっともだ。二人は本来とても優しい奴らだが、俺の為ならとひどく冷酷な判断を下す時がある。今回も恐らくそれなのだろう。
――二人は静観の姿勢か……。
なら俺だけでもバレないように何か手助けするか……?
いや、でも相手はシエスタだぞ?
どんな形でバレるかわからない……。
ていうかこんな事を考えている間にも……。
そして俺の悪い予感は的中した。
シエスタが放った炎の矢。その勢いを力ずくで殺し、貫通を免れていたユーリだったが、未だ炎の勢いは衰えずジリジリと彼の腹部を焼き切っていた。
そして遂に、ユーリの身体から炎の矢が抜け落ち、それと同時にユーリは前のめりに倒れた。
「「「「ユーリ!!!」」」」
「…………」
スカーレットとゴラム以外の四人は一斉にユーリの名を叫んだ。
しかし、彼がそれに答える事はなかった。
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