119話 燃える森
ジャペンを出発して数日。俺達は海とは反対側の陸地をひたすらに歩き、漸く目的地であるココガ大森林へと到着した――――が。
「何だよこれ……?」
「どうなってるのよ……?」
俺達は森の前で立ち尽くしていた。なぜならココガ大森林という広大な森が火の海と化していたからだ。
「お母さん……! お父さん……! みんなぁっ……!!」
「リリィ……ダメだ……! あんな森へ突っ込んだら焼け死んじゃうよ……!」
「だって……! だってぇ……!!」
リリィは今まで聞いた事もない程に大きな声で叫びながら森へ駆け出そうとしていた。それを慌ててボンズが制止。ユーリ達は唖然とし、スカーレットとゴラムは誰の仕業かを思案し始めていた。
「こんな事をしでかすのはやはり……マゼンタでしょうか」
「いや、確かシエスタも森へ向かうとか言ってたような気がすんぜ……。だからもしかしたら――――」
スカーレットとゴラムは俺の母であるマゼンタと、五芒星の一角シエスタの仕業である可能性を提示した。しかし俺にはそんな事は最早どうでもよかった。
――リリィの故郷が何故こんなことに……。
かなり外側まで日の手が及んでいるし、中にいた人達は無事なのか……?
なんて事を考えている場合じゃないな……。
「――――どちらにせよ、気分は良くない。ひとまずこの火を消す」
「「エル様……!」」
俺はそう言うと羨望の眼差しを向けて来る二人を他所に言霊を行使した。
「――――【巨大雨雲 発現】!」
俺は右手を空に向けそう唱えた。するともくもくと巨大な雨雲が発生し、滝のような雨を森全体に降らせた。
すると俺が降らせた雨は燃え盛る炎をみるみるうちに消していった。
「流石はエル様です……!」
「へっ……! やっぱ俺様の目は節穴じゃなかったぜ……!」
「あぁ、アイツらにバレたら面倒だし、何か言われたらこれは二人がやった事にしておいてくれ」
「「御意……!」」
俺は念の為にそんな布石を打っておいた。二人はそれを瞬時に理解し受け入れてくれた。それと同時に森に回っていた火の手は完全に消え、煙だけが立ち昇っていた。
「火が消えたわね……」
「あんなに燃えてたのに……。突然の雨で……。そんな天気じゃなかったはずだけど……」
セリーヌはすっかり火が消えた森と雨が止んだ空を見て呆然としていた。ユーリは怪訝な表情で空を見つめていた。
「…………っ!!」
「あっ……! リリィ……!」
すると、森が鎮火された事を確認したリリィは何も言わずボンズの手を振り切って森の中へと入って行ってしまった。
「俺達も急いで後を追おう! リリィが心配だ!」
「そうね。それに恐らく、こんな事をしでかした奴も中にいるでしょうしね……」
「オイラ……故郷を壊される気持ちはよくわかります……。リリィ……」
三人はリリィの事を大層心配していた。そしてユーリの提案に俺達は皆頷いた。
――森の燃え方を見れば外から火を付けたとは考えにくい。
ということはつまり、セリーヌの言う通り犯人は森の中にいるってわけだ。
さて、どいつだ?
リリィを悲しませる悪い奴は……。
俺が直々に成敗してやる。
俺はそんな親心さながらの想いを胸に森の中へと突入した。
◇
森の中へと入っていくと、燃えてしまって黒くなっている木々が多く目に入った。しかしながらここに住んでいたはずのエルフや魔女の姿はどこにも無かった。
「おかしくねぇか? あんなに燃えてたのによ……何で一つの死体も転がってねぇんだ?」
「お前……言い方を考えろよクソ岩……」
その違和感を初めに口にしたのはゴラムだった。ただ、言い方が少々まずかったのかスカーレットに厳しく注意されていた。まぁそのスカーレットの言い方も少々まずいと俺は思ったのだが、心に留めておくことにした。
「でもそうよね……。ここまで一人も森の住人を見ていないのは流石に変だわ?」
「はい……。だけどオイラ、動物は何匹も死んでいるのを見かけました。この子達は何も悪くないのに……」
「許せないね……! でも魔女やエルフの姿が無いとなると一体どこに行ったんだろう?」
ゴラムの言葉を受けセリーヌ、ボンズ、ユーリの三人は思案を始めた。そんな中でも俺達は先に飛び出したリリィに追いつく為に足を進めていた。
――ここの住人達は恐らく森の中心部にいるんだろうな。
魔女やエルフ達は少なくとも魔法を使えるようだし、回復とかを繰り返して何とか生きていて欲しいところだがどうだろうか……。
とにかく早くリリィに追いついて森の中心へ行かないとだな……!
◇
ひたすら広い森を進む事しばらく。漸くリリィの背中を捉えた。その奥には魔女やエルフ達が集まり何かしているのがぼんやりと見えた。
そんな中リリィは、燃えて倒れてしまった巨木の陰に身を潜め奥の様子をうかがっていた。
「リリィ、先に一人で行ったら危ないじゃないか。皆で行けばいいだろう?」
「ごめん、ユーリ。でもリリィ、森のみんなの事が心配で……」
「気持ちはわかるよリリィ。オイラもギガンテスが襲われたって聞いて気が気じゃなかったからね……」
「…………」
リリィに追いついた俺達は同じ様に巨木の陰に隠れた。そしてユーリがリリィに声をかけると続いてボンズも口を開いた。そして彼の話を聞いたゴラムはひどく申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「それより奥では何が起きているのですか?」
「スカーレット、また……! あなたは本当に……。もういいわ。ごめんね、リリィ。奥の様子を教えてくれるかしら?」
スカーレットはまたしても空気を読まない発言をし、セリーヌはため息混じりに言葉を吐いた。そしてリリィは奥の状況の説明を始めた。
「なんか魔族の女の人がこの森にいる魔女とエルフを魔族軍の配下に加えたいって言ってた……。でもみんなはそれを拒否してて、今は膠着状態って感じかな……」
リリィは淡々と説明をしていたが、その声色からはいつもの小声ながらも元気な様子が一切感じられなかった。
「森の人達は全員無事なの?」
「魔女達とエルフはみんな固まっていて無事。でも隣の集落に住むダークエルフ達は既に魔族の配下に加わったみたい」
「そうなのか。なら、ひとまずそこは安心だね」
俺の問いに対しリリィは詳しく答えてくれた。それを受けたユーリは安堵の表情を浮かべた。
「で? 中にいるその女の魔族ってのはどいつだ?」
ゴラムはそう言うと巨木から顔を少しだけ出して奥を覗き込む。するとリリィは指をさしてその女魔人を示した。
そしてそれを確認したゴラムは何も言わずに俺の元へと戻り、小声で耳打ちして来た。
「エル様。奥にいたのはやっぱりシエスタだったぜ」
「そうか、シエスタか……。ゴラム、ありがとう。ご苦労だった」
「シエスタ様ですか……。これは相当気を引き締めないとまずいですね」
ゴラムの報告を受け俺達はユーリ達に聞こえない程度に小声でそう話した。
――ふぅ……。ひとまずは人命を失う前に辿り着けて良かったものの、問題はシエスタをどうするかだよな。
ユーリ達の前で派手に俺が戦うわけにもいかないし、かといってスカーレットとゴラムが出て行けばすぐに変身を見破られて、ユーリ達にまで正体がバレかねない。
となるとやはりユーリ達だけで戦ってもらうか?
いや……流石にそれは荷が重すぎるだろ。
シエスタは五芒星の中で最強。六属性魔法の使い手だ。
いくらなんでも格上過ぎる……。どうすれば……。
俺は"対シエスタ戦"をどうすべきか必死に頭を巡らせる。だが良い案が中々思いつかない。するとあろう事かユーリが巨木の陰から勢いよく立ち上がった。
「おい! そこの魔族! 何をしている! 悪さをしているのなら、この勇者ユーリが許さない……!」
ユーリは声高らかにそう叫んだ。しかも五芒星であるシエスタに向かって、丁寧に自らが勇者だと明かした上で。
――何やってんのコイツは……!?
馬鹿なの!? 死ぬの!?
俺は開いた口が塞がらなかった。
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