118話 目指すは森
せっかくジャペンへ来たというのに、ろくに観光すらも出来ないまま俺達はゴラムと合流すべく街の外へと出た。するとそこには腕を組んで仁王立ちしている何とも偉そうなゴラムが立っていた。
「おう! テメェらがエル様のツレか! 俺様はゴラム! よろしく頼むぜ!」
「お、おう……これはまた凄い格好だね……」
「褐色の肌に銀髪がよく映えていますね。あとそのたわわな胸と、口調が荒いところも……えへぇ……」
開口一番からゴラムはいつもの調子で荒っぽく挨拶を済ませた。するとその口調や外見を見たユーリとボンズはわかりやすく鼻の下を伸ばしていた。
「またユーリとボンズは鼻の下伸ばしてる……。そんなにおっぱいが……」
リリィはゴラムの胸、鼻の下を伸ばす凸凹コンビ、自分の胸を順に見てしょぼくれた声を発した。その後もツルペタっとした自分の胸をペシペシと叩き、相当気にしている様子だった。
すると横からセリーヌが口を開く。
「気にする事ないわリリィ。この男共は女であれば誰にだって鼻の下を伸ばす変態よ」
「せ、セリーヌさん……!?」
「ちょっと待ってよ……!?」
セリーヌはまずリリィを気にかけ、その後ユーリとボンズにかなり辛辣な言葉を浴びせた。言葉のナイフを突き刺された二人は驚きの声を上げる。
「ふんっ。それよりゴラムと言ったかしら? これからよろしくお願いしますわ」
「あ、リリィも……。よろしくゴラム……。あ、あとふにゃちゃんもいるよ」
セリーヌは今更ながら弁明を図る二人のアホから顔を背け、ゴラムに挨拶をした。それに続きリリィも挨拶を済ませ、その後胸元からふにゃ丸が顔を出した。
「ふにゃあ……。もう朝クリンか? 眠いクリンよー」
「あぁ!? ふにゃ丸さ――――」
「――――はい、ストーップ!」
「ぐべぇしっ……!?」
ふにゃ丸は眠そうな声を発した。その直後。ゴラムは驚愕した様子でふにゃ丸の名を口にした。刹那。横からスカーレットの一撃が彼女の顔面にクリーンヒットした。
「ス、スカーレット!? 何してんの!?」
「いきなり顔を殴るなんて何があったのかしら!?」
突然のスカーレットの奇行にユーリとセリーヌは戸惑っていた。
「いえ……すみません。何やらコイツが余計な事を言うかと思いまして」
「あぁ……!? 言わねぇわ! てか何でふにゃ丸さ――――」
「――――だから駄目ですって」
「あべし……!?」
「「また……!?」」
スカーレットは自らの行いで二人を驚かせてしまったことを詫びた。それに対しゴラムは勢いよく反論するがまたしてもスカーレットに殴られてしまう。再度戸惑いを見せる二人。
「いってぇな、さっきから! 何すんだテメェ!?」
ゴラムは激高した。するとスカーレットは彼女の耳元に寄り小声でこう告げた。
「この方達には私やお前はおろか、エル様ですら魔族である事は伏せているのです。そんなお前が、ふにゃ丸様を知っていたらおかしな事になるでしょう? だから知らないフリを通してください」
「ん……なるほどな。そういう事か。わーったよ」
スカーレットの話を聞いたゴラムはやけに素直にそれを聞き入れた。それだけ俺の計画を邪魔しないようにしてくれているのだろう。
「へぇ……いいペットを連れてんじゃねーか!」
「ふふっ。そうでしょ。ふにゃちゃんは可愛いの」
ふにゃ丸を褒められてリリィは満足げな表情を浮かべている。嬉しそうで何よりだ。
「それよりスカーレット。ロクサーヌを探しに行くっていっても、実際どこを探すの?」
「はい、エル様。ジャペンを出て西へ行きますと"ココガ大森林"という森があります。そこには魔力の高い人間やエルフが住んでおりまして、魔人が向かう先としては十分に可能性はあるかと」
「…………っ」
そして俺はスカーレットに具体的な目的地を問うた。するとスカーレットはココガ大森林という場所を提示した。それと同時にリリィの表情が強ばったのを俺は見逃さなかった。
「ん……? どうしたの、リリィ?」
「い、いや……。えっと……今からココガ大森林に行くんだよね……?」
俺が声を掛けるとリリィは恐る恐る声を発した。
「そうよ? 何か問題でもあるの?」
「いや、問題って程でもないんだけど……。その森ってリリィの故郷だったりするんだよね……」
セリーヌは不思議そうな顔でリリィに問い掛けた。そしてリリィはその理由を打ち明けた。
――なるほどな。リリィの表情はそういう意味だったのか。
魔力が高い人間。要は魔女が住む森ってことか。
リリィの魔力や適性が高いのはそこの出身だからなんだな。
「リリィもオイラみたいに故郷で酷い扱いを受けていたりしたのかい? だとしたらオイラ……無理強いはしたくないよ」
「ううん。寧ろ逆……かな?」
ボンズは深刻な表情を浮かべるリリィに優しい言葉を掛けた。するとリリィは首を横に振りそう言った。
「逆……?」
「うん……。リリィって小さい時から魔力も適正も高かったんだ。だからいっぱい期待されてたの」
「まぁ確かにリリィの魔力は多いわね?」
「うん……。それでリリィはしんどくなっちゃったんだ。それで森から逃げ出したの」
リリィは自らの過去を次々と明かしていく。俺達は軽い相槌を打ちながらその話を聞いていった。
「でね……そんな時に女神様からの啓示が来たの。"勇者パーティに入りなさい"って」
「そうだったのか。まさかそんなタイミングで……」
「そうなの……。だからそれ以来帰ってなくてちょっと気まずいんだよね……」
そう言うとリリィは顔を伏せる。ユーリ達は心配そうに見つめていた。
――なるほどなぁ。確かにそれは少し気まずいか……。
にしても、魔女達が多くいる森の中でリリィが逃げ出したくなる程にまで期待されていたとは。
相当なエリートだったのか?
「えー。もうよろしいでしょうか? ひとまず行先はココガ大森林という事で」
リリィは少し沈みがちに、そしてユーリ達は心配そうに見つめる中、スカーレットはまたしても空気を読まない発言をした。
「スカーレット……。あなたねぇ……」
「リリィのお気持ちはお察ししますよ? ですが行かないと話が進みませんし仕方ないでしょう?」
「はぁ……。そうじゃなくってね? さすがの俺でも今のは良くないってわかるよ?」
「まさかユーリに諭される日が来るとは思いませんでした」
どこまでも自分を貫くスカーレットに俺は尊敬の念すら抱いた。しかしながらセリーヌは呆れ頭を抱え、ユーリは諭すように声を掛けた。それでもスカーレットは反省すらしていない。
「ごめんね、リリィ。ひとまず次の目的地はココガ大森林でいいかな?」
「うん、大丈夫。ありがと、エル」
「まぁコイツの冷酷さは今に始まった事じゃねーからよ! ちびっこいのも気にすんな!」
「う、うん……。ありがとうゴラム……」
「チッ……クソ岩が。喋んな……」
「あぁ……!?」
俺はスカーレットの非礼を軽く詫び、リリィの了承を得た。その後、ゴラムはリリィを元気付けようとしたのか荒っぽい口調で声を掛けた。
するとスカーレットは小声で何やら呟いた。それを聞き逃さないゴラムは声を荒らげた。
「よし! じゃあ早速森へ向けてしゅっぱーつ!」
「「「おーー!」」」
「あ、エル……また俺のセリフを取ったなー?」
「テメェはいつかぜってーシバく……」
「やれるものならやってみろ。この黒岩……」
このままではスカーレットとゴラムの喧嘩が始まってしまうと危惧した俺は、わざと大声で出発の合図を出した。すると皆はそれに応じてくれたが、ユーリは俺にリーダーっぽいセリフを取られたことを嘆き、スカーレットとゴラムは睨み合っていた。
そんなこんなで俺達はロクサーヌを探す為、リリィの故郷でもあるココガ大森林へ向けて出発したのだった。
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