112話 お世話係との再会
ナイトーくんの話を聞き、ロクサーヌに起きた出来事をある程度理解した。そして俺とゴラムにナイトーくんを加えた三人は、ロクサーヌが消えた店の前へと向かった。
道中ゴラムは、ひとりでに破壊された建物を修復しながら進んでいた。
「なんだか癖付いちまってよ。壊れたもんがあったら、つい直しちまうんだ、ガハハ!」
豪快に笑いながら次々と修復していくその姿は、かつて"壊し屋"と呼ばれ恐れられた五芒星の一角とは到底思えないものだった。
そんな姿を見たジャペンの人々は、何度も頭を下げながら感謝し、中には涙を流す者までいた。
「あぁ!? 俺様は気になったからやってるだけだ! 礼なんていらねーんだよ!」
そんな事を叫び散らしながらも、ゴラムは修復する手を緩めない。頬を赤くして目を逸らしている辺り、恐らくは照れ隠しなのだろう。
そうこうしていると、目的の場所へと辿り着いた。
「ここです。ここでロクサーヌ様は……」
「そうか。うーん……。見たところ特に手掛かりになりそうなものは無いな。ロクサーヌはこの店に入ったのか?」
「えぇ、そうです。間違いありません」
店の前をくまなく確認したが、特に何も見つけられなかった。そして俺は次に店の中を調べようとナイトーくんに確認を取り、店内へと入った。
◇
店内へと入ると、そこで飲み食いしていたのであろう人々が、机の上に顔を伏せ気を失っていた。
「すげぇ状況だな……。王妃様はこんな事まで出来んのかよ……?」
ゴラムは店内の状況を把握すると、少し後ずさりながらそう呟いた。
――確かにこれは異常事態だ。
精気を抜かれて気を失っているようだが、いくらサキュバスとはいえ、この人数を無抵抗の内に鎮めるとは……。
同じサキュバスのスカーレットですら、こんな事……。
俺自身も驚愕し、そんな事まで考えが至っていた。すると、店内で見覚えのある風貌の一団が他の者と同様に、気を失っているのを発見した。
「――――っ!? スカーレット……!?」
「は……!? スカーレットだと!?」
俺は気を失っているのがスカーレット達だとすぐに理解し、慌てて名を叫び駆け寄った。俺の横にいたゴラムは驚いてそんな声を上げていたが、ひとまずそれは無視した。
「スカーレット……! おい、スカーレット! 起きろ……!」
「うっ……うーん……。エル……様……?」
俺が必死に呼び掛けると、スカーレットは薄ら目を開いて応じた。
「大丈夫か……!? 何があった!?」
「エル様……。――――エル様!? エル様ァァァ!!」
漸く俺がここにいると認識したのか、スカーレットは大きく目を開き俺に抱き着いて来た。
「おう、スカーレット。遅くなってすまない。無事でよかった」
「エル様ぁぁ……。エル様こそ無事でよかったですぅ……」
涙を流しながら俺との再会を喜んでくれるスカーレット。そんな彼女の頭を軽く撫でてやり、俺は現状の説明を求める。
「早速で悪いのだが、この現状は一体何だ? 外で死人達が暴れていたのは鎮めて話も聞いたが、ここにいる人達に、スカーレット達に何があった?」
「うぅっ……。はい……。実は――――」
その後、スカーレットは涙を拭き、事の顛末を話し始めた。
俺の母――――マゼンタが結界を破壊し突然現れ、皆の意識を奪いロクサーヌを連れ去った事。
そしてマゼンタの野望と、それを達する為の人的要因として俺とゴラムまでをも狙っているという事を。
「――――といった経緯で……私の油断もあり、マゼンタの洗脳にまんまとかかってしまいまして……」
「そうだったのか。いや、謝る事ではない。寧ろ無事で良かった。それより俺の母――――いや、マゼンタはどこへ向かったかわかるか?」
「いえ……。ですが、あの岩の行先なら何となく見当がつくとか言っていたような気が……」
スカーレットの話が終わり、俺はマゼンタの行先を尋ねた。するとスカーレットは、自信なさげな表情で答えた。
「おうおう、誰が岩だとコラァ……?」
すると俺の横からゴラムがスカーレットに凄んだ。
「お前の事だクソ岩。今の話の流れでわからないのか。だから岩なのだよ、お前は」
ゴラムが凄んだ事に対し、スカーレットはすかさず応戦。というよりも、完全にゴラムを見下したような態度で挑発した。
「テメェ、黙って聞いてりゃあ偉そうに……!! なんも変わんねーな! このデカパイショタコンサキュバスが……!!」
「なっ……!? お前こそ変わらないではないか! この…………いや、お前。その姿はどうした……?」
スカーレットは、ゴラムの子供のような暴言に反論しようとするも、以前の大岩男の影を微塵も感じさせない褐色美女な姿に思わず問いを投げ掛ける。
「はっ! これはエル様の好みに合わせて作った身体だ! 何だ? 悔しいのかァ?」
「くっ……! 今のお前のような破廉恥な女を……エル様が好むはずがないだろうが! ね!? エル様!?」
「ん……? 俺は割りと好きだが?」
「なっ……何ですって……!?」
スカーレットはゴラムに煽られ、それでも対抗しようと俺に話を振った。だが、俺の言葉を受け、スカーレットは撃沈してしまった。
――ゴラムを破廉恥な女って……。
お前も大概だろスカーレットよ……。
そんなに大きく胸元が開いたメイド服を着やがってからに……。
いつもありがとうございます!!
ご馳走様です……!!
「何、心配するなスカーレット。俺は貴様の事もちゃんと好いている」
「エル様ぁ……!」
俺がそう言ってやると、スカーレットは目を潤ませて見つめて来る。その瞳に乾杯――――いや、完敗だ。
「チッ……」
するとすかさずゴラムが、あからさまにスカーレットへ向けて舌打ちをした。
「そこ! 舌打ちが聞こえているぞクソ岩ァ!」
「あぁ!? テメェこそさっきからうっせーんだよ、クソビッ――――」
「――――いい加減にやめんか馬鹿共が」
俺はそう言うと罵り合う二人の頭を軽くはたく。すると途端にしおらしくなる二人。
「申し訳ありません、エル様……」
「ワリィ……そんな怒んないでくれよエル様……」
系統の違う二人の美女が俺の目の前でしゅんとしていて堪らない。
「もう良い。それより、マゼンタがロクサーヌを連れて何処かへ消え、死人達も無力化した以上、ここにはもう敵がいないという事だ。ひとまず町の修復が終われば――――」
「――――待って下さいエル様」
俺が話を始めるとナイトーくんがおもむろに口を挟んだ。
「急にどうしたナイトーよ?」
「魔王様に五芒星のゴラム様。そして五芒星に匹敵する強さをお持ちのスカーレット様までいらっしゃり、私は先まで気絶しておりました。申し訳ありません……」
そう言うとナイトーくんは頭を下げて謝罪を始めた。
――ずっと黙っているなと思ってたら、気絶してたのかよ?
しかも立ったまま俺達に気付かれない程にとは……。
「良い。それより何だ? 話があるのではないのか?」
「はい。実は私、ロクサーヌ様より死人リーダーを任されておりまして」
「ほぉ……?」
――死人リーダーって何だよ!?
絶対なりたくない職業No.1だな!?
「リーダーは特別な権限を与えられております。その権限とは所謂【感覚共有】。他の者と感覚を共有するものにごさいます」
「そうか。して、ナイトーはその感覚共有で何を感じたというのだ?」
「はい。町の外にてロクサーヌ様の家を警備していた者が、物凄い勢いで走って来る男を視認したのを感じました」
――あの家、警備の奴なんかいたの?
全然気付かなかったんだが……って!
「物凄い勢いで走る男だと……?」
「はい。その者が言うには『あれは鬼だ』と……」
「「鬼ィ……!?」」
ナイトーくんの話を聞き、スカーレットとゴラムは声を揃えて叫んだ。
「何だ突然? 鬼が走る事にそんなに驚く必要があるのか?」
「えぇ、その……。エル様はご存知ないと思いますが、魔族にはかつて、"走る鬼"と呼ばれた恐ろしく強い鬼人がいまして……」
「走る鬼……鬼人……」
「あぁ。そいつは先代魔王様直属の部下、旧四天王が一人。鬼人ニック。だが、ニック様はもう既に走れない程の年寄りのはずだぞ……?」
スカーレットとゴラムは神妙な面持ちでそう言った。
――走る年寄りの鬼人ニック……。
二人がそんな顔をする程にヤバいやつなのか?
俺はそんな事を考えながら虚空を見つめる。
迫り来る脅威。そして、その鬼人ニックの目的とは一体。
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