旅行の報告
◇◇◇
同時刻――。
由衣は自宅マンションのリビングの机に参考書を広げて勉強に打ち込んでいた。
「まんま……すぅ……」
隣では愛娘が幸せそうな寝顔を浮かべながらお昼寝をしていた。その寝顔を見ていると自然とやる気に満ち溢れてくる。
「絆のために頑張らないと、絆は優しいから、将来自分のせいで私が高校を卒業してないとか考えちゃいそうだし……って、うぬぼれ過ぎかな? ふふっ」
由衣は勉強に一区切りがついたので、絆の頭を優しく撫でて、空っぽになったコーヒーカップを手にキッチンに向かう。
高校に入ることを目標にしてから3ヶ月。由衣は元々都内でも有数の進学校に通っており、勉強が好きだったこともあり、勉強は順調だ。
むしろ、真面目な性格もあり、根を詰め過ぎていた。
(…………高校に入るのは絆が小学校に上がる時、今から1年半以上先なんだから、適度に力は抜かないとね)
そう考えてはいるが、どうにも勉強を始めると寝ることも忘れて熱中してしまう。昨日も絆が寝静まってから10時間ほど机に向かっており、2時間ほどしか寝てない。
「う、うーん、こんなことをしてるといつか身体を壊しかねないわね……少し寝ようかしら……で、でも、絆が起きたら遊んであげたいし……」
とか、真剣に考えていると――。
キッチンに置いていたスマホにチャットの着信があることに気が付いた。
「あ……スマホほったらかしにしてた……誰かな? 店長とか……あ」
と、口に出た瞬間に自分が乙女チックな思考なことを自覚して、顔が赤くなる感覚におそわれた。
「わ、私ったら……子供じゃないんだから……はぁ、『親子』ともども引き返せないところまできている気がするな……」
由衣は新しくカップに注いだコーヒーを口にしながら呟く。コーヒーの苦さが口内に広がり、頭が少しだけすっきりするが……顔の赤さは引く感じがしなかった。
娘である絆は母親である由衣から見ても心の底からそう思うぐらい、義孝に懐いていた。つい昨日も「おじちゃんと遊びたい!」と駄々をこねてたしなめたばかりだ。
(私の影響を受けてるのよね……)
例の体育祭から由衣は自分でもわかるぐらい義孝のことを想うようになっていた。気が付くと仕事中でも自然と視線で追いかけてしまい、女生徒と話している義孝を見るともやもやしたりする。
「…………はぁ、私、彼女でも何でもないのに。でも店長も悪い。リレーで活躍したからって女生徒に人気出てデレデレして……店長なんだからもっとしっかりとしてくれないと……はぁ、私ってめんどくさい女だな」
由衣は自己嫌悪に陥る。最近の思考はそんなのばかりだ。
「はぁ、誰かしら……」
スマホを手に取り、チャットの内容を確認する。
送り主は望で内容は……。
『突然で申し訳ないわ……。実はわたくしとフレアが出会って10年目のお祝いをしたいの。それで是非由衣さんと絆にも参加してもらいたいです……』
「えっ? フレアさんへのサプライズ……ふふっひまわり畑か。絆よろこびそうだなぁ」
由衣は張りつめて育児と仕事と勉強しかしていなかった息抜きには嬉しいと考えながら、チャットを読み進めていく。
すると――。
『場所は少し遠いので1泊2日の旅行を計画しています。都合のいい日を教えて頂けると幸いです』
「えっ!?!? りょ、旅行!?!? 泊まり!? て、店長もいるよね……さ、最近の子は大胆ね……ま、まあ、仲のいい家族同士の旅行と考えればいいのかな。絆に聞いてみよう……」
「まんま……どうしたの」
その時、由衣の叫びで起きたのか、絆が眠そうな目をこすりながら、てくてくと由衣の元へ歩いてきた。
「き、きずな、あまりおめめをこすっちゃだめよ。お顔洗おうか」
「はーい……」
絆と手を繋いで洗面台向かう途中、由衣は遠慮がちに口を開く。
「絆、おじちゃんや如月さんたちとお泊りに行きたい? ひまわり畑らしいんだけど」
「えっ……ええええええ!!! き、きずないきたい!!!!!!!!」
数秒前まですごく眠そうにしていたのが嘘のように絆は声を上げた。よほど行きたいのか、少し必死なのが可愛らしい。
「ふふっ……それなら一緒に行こっか?」
「うん!! やったあああああ!!」
絆は嬉しさのあまり、由衣の足に抱きついた。
(ふふっ、喜んでくれてよかった……。絆に素敵な想い出が残るようにしてあげなくちゃtね…)
由衣はそんな娘が愛おしく、優しく頭を撫でた。




