お嬢様の望み(2)
「それで何がいいかしら……?」
如月が不安げに聞いてくる。
さて、ここで俺の意見を言うのは簡単だが、如月のやつすぐそれに決めそうだよな。
ここはまず如月の意見を聞くべきじゃないか? わお、俺って大人……はぁ、って調子にのる歳でもないか……。
「お前は何かあるのか?」
「……黙秘するわ」
如月はそっぽを向いてしまう。その態度が悪いことを隠している子供に見えて微笑ましい。
それは実花も同じようで、俺の耳元へ顔を寄せてきて小声で呟く。
「パパぁ……こんな時だけど可愛いからお持ち帰りしたい」
「お前は黙ってろ。それに何がお持ち帰りだ。ここはもうお前の家だ」
「えへへ、そうだよね……ここは私の家だもんね。えへへ」
「……何照れてるんだよ。お前がここに来て1年以上経つだろうが」
そんな反応するな俺まで恥ずかしくなる。
こいつ俺と住めることがそんなに嬉しいのか……? う、自惚れ過ぎか?
「…………」
ふと、そっぽを向いていた如月が俺たち親子に温かな視線を向けていることに気がつく。
……今のやりとり見ていたのか。普通に照れくさい……。
「……そうね。プレゼントではなくてイベントでもいいかもしれないわね」
「イベント?」
「貴方フレアの趣味って知ってるかしら?」
「ええっと、確か筋トレだっけ?」
旅行先のプールでフレアさんが着衣水泳をしていた時にそんなことを言っていたような……。
「あ、あはは……パパも知ってるんだぁ。フレアちゃん休みの日はずっとトレーニングしてるらしいよ? ランニング100キロに始まり水泳10キロで終わる地獄メニューで……」
実花は苦笑いMAXの色彩を失った目で、乾いた笑いを漏らす。
……あの人はそのうち巨大ヒーローに変身するのではないだろうか?
「フレアは仕事してるかトレーニングをしているかのどちらかなので。本人が楽しんでやっていることなのだからいいとは思うのだけど……たまには遊びでもして欲しいわ」
「遊びか……それこそフレアさんを誘ってどこか行ったらどうだ?」
「…………どこってどこに? わたくしどこに連れて行けばいいのかしら。いえ……このようなことは自分で考えなければならないことは理解しているのだけど……」
自信なさげに如月は微笑む。
「だから人に頼ることは悪いことじゃねぇんだって。わからないまま自爆するよりも100倍マシだ」
「ふふっ優しいわね。でも自分でも出来る限り考えるわ。貴方たちに頼りっきりでは駄目だもの」
自分に厳しいな……俺なら丸投げするぞ。
少しでも力になりたいが……俺も大人のお遊び以外は明るくない。女性が喜びそうなところとか尚更だ。ここは遊び倒してそうな実花に聞くのが一番だろう。
「実花なんかいい場所ないか?」
「うーん、フレアちゃんなら、のぞみんに連れて行かれた場所ならどこでも喜びそうだけど……あ、フレアちゃんお花が好きだって言ってたし、お花畑に連れて行ってあげれば?」
「……あっ確かにフレアはお花が好きね。部屋にも飾っているし。なんでも昔、人道を踏み外した戦場で一輪の花に心を救われたそうよ」
「…………」
何その壮大そうなエピソードは……ちょっと気になっちゃうんだけど。
「どこか綺麗な花畑はないかしら……」
と、ともかく花畑だな。心当たりは……あっ。
俺の頭には綺麗な『ひまわり畑』が思い浮かんだ。
十数年前に訪れたあの……。
「ひまわり畑なら……」
「えっ? パパそれって……ふふっ、いいんじゃないかな! ママの心を救った場所だもん! 多分フレアちゃんも気にいるよ!」
「そうだな……俺ももう一度行ってみたいな。今度アヤメを誘ってみんなで行くか」
「それなら貴方たちも一緒に来なさいな。ふふっ、フレアも喜ぶわ」
「いいの!? やったどうせならお泊まりにしようよ!」
「おい、お前何をーー」
「いいわね。それなら皆さんにも連絡しましょう。旅行がプレゼントなんて素敵ね」
「…………」
あっ……これもう止められないやつだ。
はぁ、仕方ないな……俺もあの場所に行くのは楽しみだし、いいか。




