お嬢様の日常(2)
それから数時間後の朝9時。
フレアが用意した欧米風のおしゃれな朝食を食べ終え、主従仲良くコーヒーを飲んでいた。
そんな中での話題は勿論昨日の飲み会での義孝の言動による考察だ。
「なるほど、わたくしは少なくとも義孝さんに嫌われてはいないのね……強引な方法を取ってしまっているから心配だったのだけど」
「いえいえ、むしろ学生の身で社会に出て働いているお嬢様を尊敬しているかと思います」
「……ふーん、そう……」
望は素っ気なくそう言うと、優雅な動作でコーヒーカップを手に持ち、そのまま口をつける。
……動揺しないようにしているが、にやけないようにするのに必死だ。
「それで……」
望はカップをテーブルに置くと、一息ついてからフレアをキッと真剣な顔で見た。
まるで数兆取引をする前のような緊迫感である。
「わたくしは義孝さんに恋愛対象として見られているのかしら……?」
フレアは望の言葉にほんの少しだけ表情を曇らせる。それは他の人なら気がつかないような微かな変化だが、幼い頃から人の顔色を伺ってきた望にはそれがわかった。
「はぁ、いいわ答えなくても。ごめんなさい。答えにくいことを聞いたわね」
「いえ……はっきり申し上げれば、恐らく「仲のいい親戚の子」ぐらいのポジションにいるかと思います」
「…………」
(「同級生の娘」だった頃に比べればいい成果は出ていると思うのだけど……のんびりもしてられないのよね。実花さん、未来さん、夢野さん、由衣さん、アヤメさん、みんな可愛いもの。義孝さんの性格上わたくしが一番ではないと、わたくしには振り向いてくれない……)
義孝に話すようになってから5ヶ月ほどが経過していた。そして、義孝を見続けて1年以上が経っていた。そんな時が経つ中で望の心境は確実に変化していた。
最初、義孝に近づいたのは利益のためだ。如月が竜胆と血縁関係になるのは大きな意味がある。
(わたくしは変わったのかもしれないわね……如月家の者としては失格だわ)
だが、今如月の胸には「義孝に何かしてあげたい」という考えが強くある。前は利用価値がある程度にしか考えていなかったのに……今は……。
「…………」
「お嬢様……?」
望が難しい顔で考え込んでいると、フレアが心配そうに顔を覗き込んできた。望はそんなフレアに微笑みかける。
「心配しなくていいわ。そこまで思いつめてはいないわ。むしろわたくしは今状況を楽しんでいるわ。ふふっ、ここまで1人の殿方のことを考えるなんて初めてだもの」
「それなら……いいのですが……」
フレアはまだ主のことを心配そうに見ていて、その表情には主従以上の感情があるようにも見える。
フレアが如月家にもう10年ほどが経ち、フレアは如月家の内情と、望の「家族関係」を知っている。だからこそ、人一倍心配に思っていた。
そんなフレアの心情は望も理解している。
だからこそ頼りにしているし、姉の様に慕っている。そして……フレアにも大切にされていることは強く伝わってきていた。
(フレアにも何かできたらいいのだけど……ふふっ、わたくしそんなことを考えてばかりね。本当……前のわたくしからしたら考えられないわ)
望はまた思案しながら、ほろ苦いコーヒーに口をつけた。




