お嬢様の日常(1)
次の日の日曜日朝6時半――。
如月望は自分の部屋で目を覚ました。
「…………」
望は寝ぼけ眼で自分以外誰もいない寝室を見渡す。20畳ほどの部屋は化粧台とベッドだけが置かれていて殺風景だ。
望が住んでいるのは都心のタワーマンションの上層階で、窓の外からは都心のビル風景が一望できる。
部屋は4つあり、女子高生が住むには不相応な部屋だが、望は『家庭の事情』でこのマンションに1人で暮らしていた。
(……義孝さんの部屋と比べると人間らしくない部屋よね……今日休みだし、何か部屋を飾る物を買ってみようかしら?)
望はそんなことを考えながら、ベッドから身体を起こしてリビングに向かう。リビングにはエアコンをかけていなかったので、むわっとした7月特有の湿気の多い暑さを感じた。
「……シャワーを浴びよう」
『ピンポーン……ガチャ』
その時、部屋のチャイムが一度だけなり、しばらくすると鍵が開く音がした。すると望が思い描いた人物が部屋に入ってきた。
それはビシッとしたスーツに身を包むフレアだ。
「おはようございます。お嬢様」
「おはよう。今日はお休みなのだから、わざわざ来なくてもよかったのに」
望はそう言いつつ、エアコンのスイッチを入れる。フレア来ることはいつものことなので、可愛らしいパジャマ姿でも動揺はない。
「いえ……それはそうなのですが……朝にお嬢様の顔を見ないと心配でして……」
(ふふっ、フレアって本当に心配性よね。昨日も)
「その気持ちは嬉しいけど、あまり働かせると義孝さんに怒られてしまうわ」
「も、申し訳ございません……」
義孝の名前を出すと、怒られた子供のようにしゅんとしてうつむいてしまう。
「ふふっ、でも貴女が自分で来てくれたのはとても嬉しいわ」
「……! そ、そんな、もったいないお言葉です。ふふっ、お嬢様は優しいですね」
望の言葉にフレアはぱああっと笑顔になり、その後に優しくほほ笑む。望はそんなフレアを見ると、なんだか恥ずかしくなり、ふっと視線を逸らす。
「……そんなことないわよ。わたくしは優しくしたい人間にしか優しくしないわ。自分の利益を優先する嫌な女よ」
「ふふっ、そんなことはありません。昨日、義孝様もお嬢様のことは褒めていました」
「…………」
望はフレアの言葉にぴくっと反応する。そして、ちらちらと恥ずかしそうにフレアのことを見る。
「そういえば……フレアは昨日義孝さんや夢野さんと遅くまで飲んいたわね……」
「ええ、お嬢様のお気遣いで楽しい時間を過ごさせて頂きました」
「そ、そんなことはどうでもいいのよ……当然のことだわ。フレアはわたくしの力になっているのだから、もっと休んで欲しいぐらいだわ……そ、それよりも早く義孝さんがわたくしに対してどう思っているのか教えなさいな」
望が静かな口調で早口でそうまくし立てる。フレアに聞けば「義孝のために何かできるかも」という考えが望を焦らせた。
フレアはそんな望を微笑ましいものを前にするような感じで話す。
「ふふっ、わかりました。では、朝食をご用意しますので、その時にお話し致しませんか? お嬢様は先にシャワーを浴びてきては如何ですか?」
「わかったわ。ありがとう……」
望はフレアの気遣いにお礼を言うと、早足でバスルームへと向かった。
フレアはそんな望を笑顔で見送るのだった。




