お嬢様が休日に遊びに来た(12)
それから数時間後――。
日はすっかり暮れて時間は夜10時になろうかという時間だった。
俺はそんな中、如月と2人でマンションの前の道路に出ていた。外に出ると7月ということもあり、蒸し暑い空気を感じる。
「蒸し暑いわね……」
「7月だしなぁ。まだまだ暑くなるんじゃないか?」
「そう……」
俺は如月と何気ない会話をする。如月は何処かよそよそしく、緊張しているような態度だ。
(いや……ただ如月の迎えの車を待っているだけなんだけど……な、何だこの空気は……食事会の時は普通だったし……)
あれからフレアさんも呼んで、俺、実花、未来、如月、明菜の6人で料理を堪能した。未来と明菜が作った料理は絶品で、さらには会話も弾んで楽しかった。
いい時間になって如月は「わたくしは明日仕事があるので先に失礼するわ」と言い席を立った。
当然一緒に居たフレアさんは如月のことを送ろうとしたが「今日は休みなのだからゆっくりしていなさいな。夢野さんとお酒を楽しんだら?」と言った。
フレアさんは少し戸惑っていたが、如月が「大丈夫、車をマンション下まで呼んであるわ。それに……車まではこの人が送ってくれるわ」と、悪戯っぽく俺のことを見ると――。
フレアさんはそのアイコンタンクトで全てを察したのか「それではお言葉に甘えまして。義孝様お願いしてもよろしいですか?」と優しくほほ笑まれた。
まあ、断る理由もなかったので一緒にマンションの外に出たわけだが……出るとこのよそよそしい空気である。
「…………」
如月は何かを言いたげに俺のことをチラチラと見てくる。
う、うむ。ここは年長者である俺が話題を提供するか……。
「えっと……迎えの車ってもう来るのか?」
「……そろそろ来ると思うのだけど……あ、あの、わたくしと2人で居る時間は苦痛かしら?」
何気なく話題を振ったつもりだったのだが……ものすごくマイナス方面に捉えられたようだ。途端に捨てられた子猫のような雰囲気になる。
「えっ……? そういう訳じゃないんだけど」
「そう……ならいいのだけど……はぁ、わたくしは駄目ね……駄目ね……全く駄目……はぁ、大抵のことは上手くできるのに……一定方向のメンタルはそこまで強くないのよね」
なんか自己嫌悪に陥ったらしく酷く落ち込み始めた。う、うーん、さすが如月だ。落ち込んでいる姿も可愛い……うん、そんなことを考えている場合じゃないな。
一応如月が落ち込んでいる理由に「心当たり」はあるし……。
「お前は普通じゃないことはあんまり気にしなくてもいいと思うぞ……? その歳で働いて、利益を上げてるんだろ。そうそう真似できることじゃない」
「えっ……?」
「明菜と未来みたいに家庭的じゃないことを気にしていただろ?」
「…………それは」
「馬鹿、社畜の目を舐めるな。それぐらいはわかる」
俺がそう言うと観念したのか、如月は軽く息を吐く。
「貴方って自己評価が低いから、自分が関わることには鈍感なのに、自分が関わらない他人のことには敏感なのよね……」
「はっ? 俺は自分のことも超分析できてると思うぞ」
「くすっ、できていたら今みたいな状況にはなっていないはずだけど……まあ、いいわ。それはそれで可愛いもの」
如月は悪戯っぽく笑う。だがそれは馬鹿にしているような感じはまったくなく、どこか優しい感じがした。
「可愛いって……はぁ、おっさんに言う言葉じゃないだろ」
「あら、そうかしら? ふふっごめんなさい」
まあ、よくわからんけど……如月に表情に明るさが戻ったからいいか。さすが元社畜は年下の慰め方は熟知してるな! ……調子に乗り過ぎか。
そんな、ことを考えていると俺たちの前の一台の高級車が止まる。
「あら……もう来てしまったのね。もう少し貴方とお話したかったのだけど……しょうがないわね」
「そんな寂しそうな顔をするなって。また暇な時は付き合ってやるから」
「……またそう言うことを気軽に言うんだから……わたくし、本気にするわよ」
それを言われると脳裏に娘たちの顔が浮かぶ……。
「ああ……べ、別に娘たちが激怒しない程度ならいいぞ……仕事も忙しいから、先の予定はわからんけど」
最高にかっこ悪いな俺。この保険をかける感じが……俺らしくはあると思うけど……。
「ふふっ貴方らしいわね。夏休みはお仕事なの?」
「ああ、学食が休みな時は別現場のヘルプか研修だ。まだどこかは決まってないけどな」
……学食努めれば長い夏休みが取れると思っていた頃が懐かしい。冬休みの感じからして……ヘルプや研修があるので、普段の業務よりも忙しいまである。
俺の安息の時はいつ来るのだろうか……。
「……今回も貴方にたくさん色んなものを『もらった』……今度はわたくしが貴方に何かできないものかしら。わたくしは……貴方に何かしてあげたいわ」
「えっ……?」
「ふふっそれではごきげんよう。今日は楽しくて……最高に幸せだったわ」
如月はそう笑うと車に乗り込んでいった。
ぶっちゃけ、俺も楽しかったし、如月が喜んでいるのなら俺も嬉しいが……最後の如月笑みにはドキッとしてしまった……。




