お嬢様が休日に遊びに来た(8)
あれから如月がどこかに電話するとすぐにフレアさんが車で迎えに来た。
あれだけ抵抗感が出ていた高級車でのドライブだが……前回ほどは緊張感は持たなかった。
ほんと人間って慣れる生き物だよな……如月に何度か乗せられてるうちに今は「フレアさんに働かせて申し訳ない」としか思わなくなった……。
なんか休日に働かせているみたいだし……。
だけど……そんな俺の考えとは裏腹に、運転するフレアさんはとても上機嫌だった。
てっきり如月をラーメン屋に連れていったことに対して小言を言われると思っていたんだが……。
(うーん、日に日にフレアさんの評価が上がっている気がする……悪い気はしないんだけど……引き返せない道を進んでいる気がするのは、気のせいだろうか?)
そんなことを考えながら車で走ること数十分――。
俺と如月は都心の路地裏にある『喫茶店』の前に来ていた。ちなみにフレアさんはいい笑顔で颯爽と去っていった……。
あの人仕事と趣味が一体化してないか……? 元社畜としては心配になる。あの人仕事を頑張り過ぎるからな……。
それにしても……喫茶店か。まさか……。
「ふふっ、素敵なお店ね」
「それは俺もそう思うんだけど……ここに入るのか?」
「ええ、軽くお茶でもしましょう」
学校の教室2つ分ぐらいの大きさの建物で、西洋風のお洒落な外装だ。
店の前の看板には美味しそうなパンケーキやパフェの写真が飾られていて……若い女の子が好きそうな感じだ。まあ、ようするに……おっさんがいると場違い感が半端ない。
だけど、この路地は人通り事態が少ないからか、店内もお客さんは少なそうだな。隠れ家的な店か? 単純に儲かってないだけかもしれないけど……。
「ここまで来て駄々こねるのもの大人げないか……」
「ふふっ、ほら早く行きましょう」
「お、おい、慌てるなって」
如月は俺の言葉に機嫌よさそうに頷くと、俺の腕を掴んでお店に入っていった。
すると、カラン、と、扉につけられたベルからこぎみのいい音が鳴る。
店内は外装と同じくお洒落で、西洋画や花瓶が店内を彩り、ケーキの甘い香りが鼻をくすぐる。
席はテーブル席が10ほどで、半分ぐらいはカップルや老夫婦で埋まっており、ケーキやコーヒーに舌鼓をうちながら会話を楽しんでいる。
「へぇ……雰囲気があっていい店だな」
「ええ、わたくしのお気に入りのお店なの。放課後によく来るのよ」
とか考えていると――。
『いらっしゃいませ……』
……いつも聞きなれた声が俺たちをむかえてくれる。
恐る恐る声の方を見ると――。
「み、未来……」
「お、お父さん……来てくれたんですか?」
未来はいつもの無表情ながら嬉しそうに俺の方に向かって早歩きしてきた。
ああ、そう言えば……喫茶店でバイトしてるって言ってたな。
「ふふっ、お父さんが来てくれて嬉しいです」
「あ、ああ……」
なんというかむずがゆいというか……普通に恥ずかしい。だ、だから来たくなかったんだ。まあでも……喜んでくれているからいいか……。
(ぶっちゃけ……如月がに喫茶店に連れてこられた時点で薄々そんな気はしたしな……)
「あと、如月さんもいらっしゃいませ……お父さんとデートみたいに来たのは許せませんが……お父さんを連れて来てくれたのはお礼をいうよ……ありがとう」
未来は如月の方を見ると、少し恥ずかしそうな、不機嫌そうな、拗ねたような、複雑そうな表情でお礼を言う。
そのお礼を聞くと如月は――。
「…………………………」
無表情のままフリーズした。
「お、おい、どうした?」
「わ、私なんか失礼なことを言っちゃった?」
親子そろって心配すると、如月は我に返って、慌てた様子で困ったような笑みを浮かべた。
「し、失礼……そ、その、未来さんが敬語なしで話してくれたのが嬉しくて……」
「ああ、そういえば……」
こいつ家族や由衣とかには時々タメ語になるなんだけど、他の人には基本きっちり敬語だからな……。
「し、知りません……ほら、2人とも席に案内するからついてきてよ」
「ふふっ、ごめんなさい」
未来は恥ずかしがっているのか、会話を切る様に席に向かって歩き出す。
未来と如月が仲良くしている様子を見ていると、なんだか嬉しくなるな……。




