お嬢様が休日に遊びに来た(1)
『ミーン、ミーン、ミーン!!!』
毎日暑くセミの声がうるさくなってきた。そんな土曜日の午前中に、俺は家のリビングでクーラーを全開にしてゴロゴロしていた。
人生最大の大疾走の末に勝利した体育祭から約2ヶ月後の7月中旬――。
季節は代わり、世間はすっかり夏になっていた。
あの体育祭で俺の日常が劇的に変化した……ということもなく、俺は相変わらず社畜に片足を突っ込んでいる生活をしている。
まあ、しいて変化を上げると俺たち食堂メンバーの人気が上がった。今JKにナチュラルに話しかけられる。
嬉しいような……なんか恐いような……。
「お父さん、本当にお昼ご飯を用意しなくてもいいんですか?」
「ああ、それぐらい自分で用意するから気にすんな」
そんなことを考えていると、洗面所でジーパンと青のワイシャツの私服に着替えた未来がリビングに顔を出す。
今から喫茶店のバイトに行くらしい。ちなみに実花も朝早くからパソコンの打ち込み作業のバイトに行った。
休みの日に働かなくても……とか思う。お金ならパパがあげるよ? ……それ言うと「自分で好きなことに使って下さい」って、何故か怒られるんだけど……。
それ俺の台詞じゃねぇか?
「お父さん、今日は何を食べるつもりなんですか?」
「うーん、偶には油ぎとぎとのラーメンが食いたい」
ああいうジャンク的なやつは歳を取っても無性に食べたくなる時がある……まあ、食った後にだいたい胃もたれで後悔するんだけど。
そんな俺を見て未来は少しだけ心配そうな顔をする……いや、いつもの無表情なんだけど。雰囲気的な感じが。
「まあ、毎日でないのならいいと思いますが……身体壊しますからあまり無茶な食べ方はしないでよ?」
「わかってるって。俺もそんなに若くない」
「そんなことないですよ。お父さんは若いです。4、5回戦はできると思います。ううん、お姉ちゃんと2人で相手してもらう予定なのでそのぐらいじゃないと、ちょっと困ります」
「…………」
こいつは何で朝から真顔で下ネタを言うのだろうか……真面目そうな表情だからギャップがやばい。
全国のお父さんはこういう時にどういう反応してるんだろうか……俺は追い出す。
「ほら、さっさと行け。遅刻するなよ」
「うぅ……話を誤魔化されました……でも、そうですね。お、お父さん……」
俺が追い出そうとしていると、未来は何かを期待するような視線を向けてくる。こういう目の時は甘やかしてほしい時だ……。
「お父さん、私今日バイト頑張ります……そ、それで、ラーメンの後にコーヒーとか飲みたくないですか? 2時頃なら……そのお客さんも少ないですし……」
「…………」
歯切れは悪いが、どうやら俺に自分のバイト先に来て欲しいらしい。
うむ、チラチラこっちを見て可愛やつだ。だが――。
「断る。俺は全ての社畜の味方だ。仕事の邪魔だけはしないことは社畜の神である葵ちゃんに誓っている」
ぶっちゃけると、娘のバイト先に行くとかなんか恥ずかしい……。
「はぁ、お父さんはやっぱりそう言いますよね。お父さんの馬鹿……もういいです」
未来は俺がそう言う反応をするのがわかっていのか、軽くため息をつくと、そのまま背を向けて玄関に向かっていく。
その時――。
『ピーンポン、ピンポーン』
家の呼び鈴が鳴る。
(ん? 来客の予定はないんだけど……また、実花のやつが通販でゲームでも買ったのか?)
俺はそんなことを考えながら、だるい身体に鞭をうって立ち上がる。
「お父さん、私が出ますよ?」
「いや、お前はバイトだろ? 俺が相手をするから行ってこいよ」
そう言うと俺は玄関に向かい、扉の前で覗き穴を見ると――。
そこには見知った美少女がいた。
「えっ? 何しに来たんだ?」
俺は大した警戒もせずに扉を開く。そこには可愛らしくも高級感のあるスカートに、薄手のジャケットを着た如月が立っていた。
手には家電量販店の大きめの紙袋が握られている。
「ごきげんよう」
「おう、おはよう。どうかしたか? 実花未来なら今日はバイトらしいぞ?」
俺が不思議そうな顔をしていると、如月は急に不機嫌そうに眉を細める。
「はぁぁ、やっぱり『先週金曜日の電話』のことは覚えてないのね」
「えっ……き、先週俺たち電話したのか?」
先週金曜は三沢、新井と夜遅くまで飲んでいて、かなりの量の酒を飲んだせいであまり記憶がない。言われれば誰かと電話をした気がする……。
「まあ、こっちも『あえて』それから連絡しなかったのでいいわ。それよりも――約束通り貴方の家に遊びに来たわ」
「…………はっ?」
俺今からJKと遊ぶの?
い、いや、それも大問題な気がするが……今はそれよりも……。
「お父さん、私やっぱりバイト休みます。今風邪ひきました」
冗談なんだろうけど……目がマジな未来さんのご機嫌をどう取るかだな……。




