偵察ミッション(8)
◇◇◇
『待て。落ち着け。これは仕事だ。決してJKとデートをしているわけではない。お前が危惧していることは何もない! 健全で安全な営業だ! 俺は白が逃げ出すほど白で無実だ』
という、見苦しい中年の言い訳メールを由衣に送った後、とりあえず実花の競技を観戦していた。
娘が頑張っている姿を見るのはいいものだな……。
「わあああ、お兄ちゃん! 実花ちゃんが勝ったでござる!」
「ふっ、名家の者として当然の結果ね!」
「あいつ本当に足が速いんだな……パンを取って食う仕草はまさに『追いはぎジャッカル』だったな」
「? なにそれ?」
「あいつの中学校時代のあだ名らしい」
「はっ? 未来よりも実花の方がいじめられてない!?」
北条が言うことはもっともだけどな。普通そんな奇抜なあだ名で呼ばれる機会はないだろう。でもなぁ、あいつ『追いはぎジャッカル』のあだ名に自信持ってたし……。まあ、実花が勝ててよかったとだけ思っておこう。娘が勝つと不思議と俺も誇らしくなってくるしな。
「あとは……未来か」
俺は未来の様子を屋上から観察する。娘とは言え離れた場所から1人のJKを見ているというのは、もし誰かに見られたら犯罪臭がやばいだろうな……。
俺たちは親子関係を周りに隠してるわけだし。
まあ、今は俺の保身よりも……。
「あいつ、クラスで浮いてるな……」
「えっ? そうでござるか? 私にはいつもの様子と変わらない気がするでござる……」
まあ、アヤメの言うこともわかる。未来の様子はいつもと変わらない無表情で、普通なら感情が読み取りづらい。
「まあ、俺はいい加減あいつのとの付き合いも長いからな」
俺の目には未来は実花の応援をしているクラスメートの輪に入りたそうにしているが、勇気が出ないのか、きょろきょろと周りを見ていた。
未来は俺と実花みたいに人見知りをしないタイプではないからな……内弁慶というか馴れれば言いたいことを言うんだけど。
「まあ、でも……危惧してたほどではなさそうだな。いじめというかは未来がコミュ障だけな気がする……」
俺が軽い気持ちでそんなことを考えていると――。
「甘い! 甘すぎるってのジョン君! あんたは女子同士のねっちこい人間関係というのを何もわかってないわ!」
「へ……? そ、そうなのか?」
北条の自信満々で俺のことを責めるような口調だ。確かに……言われれば俺は女同士の友情というものに疎いのかもしれない。
「最近では娘たちのおかげか女の子の知り合いも増えたが……それまでは男社会で生きてきたからな……もしかしたら俺の感覚がずれているのか!」
「そうよ! あんたと仲のいい子たちも上下関係とか人間関係とかでドロドロよ! きっと!」
なん……だと。俺の考えではみんなそこそこ仲がいいと思っていた……。
俺は当事者であるアヤメをちらっとみると……アヤメは苦笑いを浮かべている。肯定しているような……呆れてるような……。
「お、おい、アヤメ、北条の言うことは本当なのか?」
「お兄ちゃん、安心するでござる。少なくとも夏輝ちゃんが言うようにドロドロした関係ではないでござる。もっと情熱的で友情的で心情的で心の奥底から湧き上がってくる地獄のマグマのように燃え滾った何かでござる!」
「そ、そうか……」
俺は安心したように息を吐く。
まあ、アヤメの言ってることの半分は理解できなかったけど……仲が悪いわけではなさそうだ。
「ふっ、人間はそんなに綺麗なものじゃないわよ……ふんっ」
ん? なんかいじけたような、納得していないような感じだな。あっ、そう言えば実花が北条は人間嫌いの気があるって言ってたな……。
単純に見えて……案外難しい性格なのかもしれないな。
「くっ! ジョン君! 何よその目は! 言いたいことがあるならはっきり――」
「あっ! 見るでござる! 未来ちゃんが動いたでござる!」
北条が俺の考えを読んで、噛みつこうとした時、アヤメが遮って声を上げた。
「? クラスメイトの元に向かってるわね。ふっ、ジョン君見てなさい! 私の予想が当たってるところが見られるわよ! ……当たってない方がいいんだけど」
最後だけ、悲しそうにボソッと言う北条。
……今の反応は素ぽかったし、これまで態度、というか、このおせっかいのことを考えると、根は悪いやつじゃないんだよなぁ。
(おっと、今は未来のことが優先か……北条の勘が当たってなければいいんだけどな……)
俺は心にざわざわする緊張感を持ちながら未来の動向に注目した。




