再確認する決意
同時刻――。
来賓用の観客席にて――。
「みかちゃん! がんばってええええ! きずないっぱいおうえんするもん!」
「おっそろそろ実花の出番か……テンチョーが見られないのは残念だなぁ」
「先輩のことだからどこかで見てそうですけどね。社畜っぽく仕事しながら……」
(み、みんな、店長が屋上にいることに気が付いてないのかな……言わない方がいいよね……万が一店長が破廉恥なことをしていたら問題だし……はぁ)
音無由衣は後悔の念に苛まれていた。
(うぅ……わ、私はなんてメールを送ってしまったのだろう……)
自分のスマホを持ってため息をつく。
数分前に偶然義孝の姿を見つけてしまった。しかも義孝は由衣が知らない女子高生とアヤメと一緒に居る。嘘をついて……。
それからは……頭に血が上り気が付いたら……。
『……店長、女子高生と楽しそうに観戦ですか……? 逢引ですか? デートですか? 不潔ですね……』
という感情むき出しのメールを送っていた。自分でもこれは言い過ぎだと思う……。
(はぁ……私は何様よ……彼女でも何でもないのに醜く嫉妬して……冷静に考えたらお仕事かもしれないし。アヤメさんはスーツだし……実花の競技が終わったら謝罪のメールを送ろう……)
「? 由衣さんどうかしましたぁ……? 何か元気がないようですけど?」
その時、隣にいた明菜が心配そうに、元気のない由衣に話しかけた。由衣は急に話しかけられたことに驚くと同時に『夢野さんが今の自分の立場なら、あんなメールは送らないよね……』と、さらに気持ちが暗くなってしまう。
「い、いえ、体育祭って懐かしいな……って、思って……」
「ふふっ、そうですね。わたしは運動が得意ではないので、あまりいい思い出はありませんが……」
由衣のとっさに出た嘘に対して明菜は優しく笑う。
(夢野さんみたいな純粋な人に「好きな人は今女子校生と一緒に屋上に居ますよ」と、は言えないわよ……お仕事にしろ店長が嘘をついた可能性が高いんだし……はぁ、店長の馬鹿)
由衣がそんなことを考えていると――。
「まんま! もうすぐみかちゃんがでるよ! おうえん! おうえんしようよ!」
絆が由衣の服を引っ張りながら話かけてくる。その笑顔で実花の応援をしなくては、という考えがよぎり、気持ちを切り替える。
「……そうだね。ほら、絆おいで」
「うん!」
由衣は絆を抱っこすると、スタート位置に立つ実花に注目する。
そして、スタートが切られると観客席から歓声が上がり、それに後押しされるように実花が走り出す。
実花の足の速く、他の生徒ぐんぐん突き放してゆく。さらには中間地点に設置されているパンも華麗に口でキャッチ。
その瞬間歓声がさらに大きくなり、由衣の近くにいた仲間たちも声を上げた。
実花の走りには優雅さと気品のようなものがあり、人目を惹きつける魅力がある。
「わあああああ! 実花っちすごい!!!」
「さっすがは実花の姉御だぜ!! 周りのやつらとはレベルが違う!」
「あははははっ! 実花頑張れよ!!」
(ふふっ、実花、カッコいいな…………羨ましい…………)
由衣は実花が走る姿を見てそう考えた。そして……そう想った瞬間自分の中にずっとあった『決意』がさらに強固になった気がした。
(やっぱり、私だけ立ち止まってなんかいられない……店長の隣に居たいならなおさらだわ。ふふっ、そのためには『リレー』で勝たないとね)
由衣はそんな考えを抱きながら、上品に口にパンを詰め込む実花を見ていた。




