偵察ミッション(6)
校内の掃除用具入れに2人で入っていた俺と北条だが――。
コンコン。
しばらく互いにドギマギした時間を過ごしていると、掃除用具入れをノックする音が聞こえてくる。
俺はそれと同時に掃除用具入れの扉を開くとそこには――。
「お兄ちゃん! 夏輝ちゃん! ごめんでござる! 時間かかっちゃったでござる!」
心配そうに俺たちの顔を覗き込んでくる。かなり責任を感じているようで、泣きそうな表情までしている。
「アヤメ、そんな顔すんなってお前のせいじゃねぇから」
「で、でも……」
「ふっ、気にしなくていいっての。どうせ如月がさっきの倉庫での件をねちねち言ってきて時間かかったんでしょ? たくっ、あの女のおかげで貴重な体験をしたわ。ねぇジョン君?」
その時、北条はアヤメが責任を感じているのを察知したのか、唐突に俺に悪戯っぽい笑みを浮かべてくる。この湿っぽい空気を変えたいという意図がみてとれた。
(……こいつ……優しいところもあるんだな……元凶はこいつだけど)
俺は北条の笑みに対して、疲れたようなため息をついておちゃらけた苦笑いを浮かべながら首を左右に振った。
「はぁ、貴重な体験も何もない。お前、さっきのことは誰にも言うなよ? おっさんとJKがこんな狭いとこに一緒に居たと知られたら一瞬で社会的に殺されるわ」
「ふっ、えーどうしよっかなぁー。私って口が軽いから、誰かに喋べちゃうかもしれないわね!」
「はっ! いい度胸だな。話したいなら話してもいいが、家の娘たちが暴走すると思うぞ……本当にお勧めはしない。俺と2人で無駄怒られるだけだ」
「…………実感籠ってるわね。はぁ、仕方なわね。今度鼻からわさびを食べてくれたら許してあげないこともないわ」
「…………それは許してるのか?」
普通に身体に害がありそうだ……。
と、そんな軽いやり取りを北条としていると……アヤメがぼーっとした視線でこちらを見ていることに気が付いた。嬉しそうにも見える。
「? アヤメどうかしたか?」
「あはは、ううん。2人とも優しいなって思っただけ」
どうやら俺と北条の気遣いはバレバレだったらしい。アヤメが鋭いのもあるけど、少しわざとらしかったか……なんか恥ずかしいから誤魔化してしまおう。
そしてそんな考えも俺と北条は同じだったらしく、北条は不機嫌そうにそっぽを向く。
「ふっ、何のことわからないわ! 別に優しくしたつもりはないっての!」
「アヤメ、そうだぞ。俺が最も女に優しくするのは風俗の新人ちゃんに対してだ。今ではない」
「あははっ、ふたりともわかってるでござる! さあ、早く屋上に行って未来ちゃんの様子を見守るでござる!」
アヤメは無邪気にそう笑うと先に歩き出した。というか屋上から様子を伺うのか……。
とか考えていると――北条が俺の耳元に顔を寄せてくる。
な、なんすか……? こいつとの距離感がわからないな。
「グレイさんって可愛らしい人ね。明るくて女の子らしい、男はああいうのが好きなのよね?」
普通に疑問に思っているような口ぶりだ。
「まあ、アヤメは自慢の妹で、身内びいきなしでもモテるとは思うが……」
兄としては複雑です。はい、きもいですね。
「ふーん、女の子らしさが大事なのよね……『力こそ全て』という北条の教えとは正反対なものよね」
物騒な教えだな……。
ん? 出会ってから自信満々な北条が初めて自信なさそうな顔を見せたな。
だけどな……こいつ勘違いしてるな。はぁ、年寄っぽくてなんか嫌だけど、一応小言を言っておくか……北条が変なコンプクレックスを持ってもつまらないからな。
「女の子らしさなら、お前も大概だと思うぞ?」
「えっ……?」
「さっき掃除用具入れ内ではめっちゃそれぽかったじゃん」
俺のからかうような言葉をキョトンした表情で聞いていた北条。そして数秒後に我に返ったようにいつもの自信満々な笑みを浮かべる
「……ふ、ふっ、そ、そうね! 私のスペックは神だもの! そんなのジョン君に言われなくたってわかってるわよ! ふんっ!」
そう言って北条も歩き出す。
はぁ……余計なこと言ったか……? JKに対してどういう返答が正解なのかさっぱりわからねぇな……。




