未来の友達
一方その頃――。
自分が偵察されていると知らない竜胆未来は――。
(あれ……夢野さんたちは観客席に居るのに、お父さんがいない……)
生徒専用の待機場の階段に1人座りながらぼーっと、100メートルほど離れた観客席を見ていた。
他の生徒たちは今行われている競技の応援や、仲のいいもの同士で話したりとしている中では、未来は少し浮いたような感じになってしまっていた。
いつもなら多少なりとも居づらさが湧き上がってくるのだが……今はそんなことを気にしてもられない。未来が何よりも優先するのは家族のことだ。
「何をきょろきょろしてるのかしら……?」
その時、近くにいた望から話しかけられた。望は未来の挙動が悪い意味で目立っていたためか、苦笑いを浮かべ、隣に腰かけた。
未来はそんな望に周りに聞こえないぐらいのボリュームで話しかける。
「お父さんが見当たりません……夢野さんたちと一緒に居ると聞いていたんですが……何かあったんでしょうか……」
「ふふっ、寂しそうな顔してるわね……元気出しなさいな。義孝さんのことだからお仕事ではないかしら?」
「それもそうですね、お父さんですから。それにしても……よく私の表情がよくわかりますね。自分で鏡で見ても感情が出ないと思っているのですが……」
未来は無表情ながら自傷的に呆れたようにそんなことを言う。
そう口を動かしながらも視線は父親を探している。
「いい加減付き合いも長くなってきたので……。と、いいますか、……自覚はあったのね」
「生まれてからこんな感じなので……」
未来は望の顔を見て首を縦に振る。
いつも無表情なのは未来自身も気にしていることだ……昔からいろんな人に言われてきた。子供の頃はそれを気にして無理やり笑うことを心掛けていたこともある。
だけど……母親の『ある言葉』を機会に無理に笑うのをやめた。
(今思えば酷い笑顔でしたした。自分でもホラーだと思います……あのまま続けていれば確実に黒歴史でした……。お母さんには感謝しないと……)
「……未来さん、どうかしたのかしら?」
「えっ……?」
「何か嬉しそうな雰囲気を感じたので……」
(お母さんとの想い出にふけってしまいましたね……)
未来は誤魔化すように再び観客席の方を見る。気持ちは軽い……母親との想い出は未来に幸せをくれる……。
「……いえ、何でもありません。ああ、そうです……さっきグループチャットで言ってましたけど、お昼食べれなかったんですか? 後で食べるって言ってましたよね」
「ええ、『ビジネスパートナー』との話し合いがあったので。はぁ、私はやっぱりあの方は苦手ね……まあ、この話はいいわ」
望は未来の言葉を聞くと、疲れたように短く息をはく。未来は望から『如月』の仕事を一部任されていると聞いたことがあった。
「あとでフレアに届けてもらったゼリーを食べるつもりよ。先生にも事情を話して許可を取ったわ」
「それなら、よかったです。教室の私の机に如月さんの食事は用意してます。食べてください」
「…………わざわざ用意してくれたのかしら?」
「いえ、気にしないでください。そんなに手間ではなかったので」
未来としては望のことは数少ない友達だと思い、悪い感情は持っていない。もっとも……義孝のことが絡むと途端に嫉妬するのだが……。
「……そう。ありがとう未来さん」
キョトンした顔でジッと未来の顔を見つめる望。
思いがけない出来事にあったような反応で、そんな表情を見て未来は不安になってしまう。
「如月さん、私余計なことしちゃいましたか……? 無理に食べなくても大丈夫ですよ?」
「い、いえ! ありがたく頂くわ。ごめんなさい。あまりこういうのには馴れていなくて……ありがたく頂くわ……事情を話して今頂こうかしら……わたくしの競技はないですし……ありがとう、未来さん」
「え、ええ……」
望は珍しく慌てた様子でそう言うと、早歩きで教師の元に向かっていった。
「…………これは喜んでもらえたのでしょうか……? …………如月さんはすごいな」
(この歳で仕事を任されてるなんて……。私は……何ができるんだろう……何がしたいだろう……私も……前に進まなきゃ。あとでクラスの子に話しかけてみましょうか……雑談でも……)
未来はそう決断して今度はクラスメイトが談笑している場所を見る。
(勇気を出さなきゃ……で、でも、もう少し様子を見ましょう。よくわからないタイミングで話かけても空気を悪くしますし……お、お父さんも「空気を読むのは大切だ」と、言ってましたし……)
もっとも最後の一歩が中々踏み出せないでいた……。




