偵察ミッション(2)
「あ、アヤメ? お前も未来実花の応援に来たのか……?」
「あ、ああ……えっと……あはは」
俺の言葉を聞くとアヤメは笑ってごまかす。どうにも気まずい雰囲気が流れるが、この中で何故か自信満々な奴がいた。
北条は胸を張り自慢げに口を開く。
「ふっ、ジョン君、驚いたようね! ふふふっ、グレイさんは私の切り札よ! もう自画自賛するほどの渾身の『人事採用』だわ」
「…………」
やっべっ……普通に意味わかんない。グレイさんってアヤメのことだよな。
これは『空気読め』ということなんだろうか……。はっ、社畜の必須スキルだからな。俺にかかれば造作もないことだ。
アヤメの困ったような笑顔に、北条の言葉、答えは簡単だ。
「アヤメ、雇用主は考えた方がいいぞ? 俺は全てを理解した!」
「お、お兄ちゃん、この一瞬で悟ったでござるか!?」
アヤメがキラキラした羨望の眼差しを向けてくる。ふっ、そんなに褒めるなって。
てか……北条家はブラック会社か……。
「おい、人の妹に何社畜プレーをしてるんだよ! けっ! ブラック会社なんて全て滅べばいいんだよ! くそが! 人の大切な妹を食い物にしやがって!」
「わああ、お兄ちゃん。会社への恨みが半端ないでござる……それに大切とか……照れるでござる」
何でお前がドン引きして、照れてるんだよ。自分のことだろうが。
ちっ、これだから社畜素人は困る。自分がいかに劣悪な環境にいるか理解できてないんだからな。
「アヤメ、こいつに長時間の労働を強制されてるんだろ? くっ、まさか身内が葵ちゃんのような現代に生きるゾンビになるなんて……」
「あ、あはは……それは葵ちゃんに失礼でござるよ……」
「ちょっと、ジョン君! あんた失礼ね! 私は部下には優しいのよ。それに法にふれるようなことはしていないっての!」
ブラック会社を経営してる奴はみんなそう言う。
そんな考えを視線に乗せて北条を見るが、本人に悪びれた様子はない。
「ふっ、週休二日だし。残業は多少はあるけど、残業代は全額負担。さらに福利厚生も完璧でボーナスも年二回よ」
「…………でもな、口だけではなんとも言えるからな。書面と実在が違うことなんて人事では山ほどある。どうせあれだろ? アヤメが残業しても『勝手に残ってるだけだ』とか言うんだろ?」
「あんた意外と疑り深いわね……言葉に変な重みを感じる」
今の状態だと最高の誉め言葉だ。
会社に対してのトラウマが多すぎるから仕方ない。
「お、お兄ちゃん、働く環境に関しては文句ない……と、言うか、かなりの好待遇だし……休みはいっぱいだし。前もって言えば休んでもいいって言われてるし。給料三桁でござるし。それに私は断ってござるが、望むなら高級マンションも社宅として用意してくれるって……」
「北条、俺もお前の所で雇ってくれ」
「あんたさっきまでの罵倒は何だったのよ!? い、いやよ、竜胆の血を引いた人間を雇うなんて後が怖いっての!」
「いや、あまりの好条件につい……」
……得意の手のひらくるっくるが出てしまった。
なんだその悪魔が提案してきそうな好条件は……。
「でも、そ、そんな好条件絶対に裏があるだろ? そうじゃなきゃこの世の理に逆らっていることになるぞ?」
「……ジョン君、あんたが今まで働いてきた会社は、よっぽど過酷な労働環境だったってのね……可哀そうな人……」
憐みの視線を向けるんじゃねぇ。
「お兄ちゃんそれも……大丈夫。多少大変だけど……悪いことはさせられてないでござる」
「えっ……? まあアヤメの性格的に法にふれることは絶対にしないだろうけど……」
こいつ正義の人だし。
「それならどうしてそんなにへこんでるんだよ……」
「お、お兄ちゃんに怒られないかなぁ……て、ござる……」
「ん……? どうしてだ?」
「えっ……『知らなかった』とはいえ、竜胆とライバル関係である北条に入ったからであって……」
俺の驚いたような反応に、アヤメも驚いたような反応を見せた。
「…………」
な、何だろう……どうにも会話がかみ合わない気がする……。俺、竜胆とか北条とか、お家事情はまったく気にしないんだが……。




