2つの名家
さらに一方その頃ーー。
如月望は『とある人物』に呼び出され、人がいない20畳ほどの体育倉庫に来ていた――。
ちなみに望の後ろにはフレアが周りを警戒しながら立っている。獲物を狙う野生動物のような雰囲気だ。
「…………」
如月望はここ最近で一番不機嫌であった。その理由は『呼び出した人物に対しての怒り』と『ここに着た所為で義孝と昼食を食べれなかった』からだ。
しかも呼び出した本人は時間になってもやってこない。
普段の望ならその程度のことでは腹も立たず、クールに対応するが……今回はそれができないでいた。
(本当に不快な人……はぁ、わたくしも義孝さんとお昼ご飯を一緒したかったわね……このイライラは今から来る北条さんにぶつけていいのかしら?)
「お嬢様、誰かいらっしゃったようです……」
「そう……わたくしにはまだ人の気配は感じ取れないけど、フレアが言うのなら間違いないのでしょうね」
腕を組みながら右の人差し指をトントンしながら、不機嫌そうに言う。フレアはそんな主人の気持ちをくむように目を閉じる。望と同じでどこトゲトゲしい雰囲気がある。
「ええ、人数は2人……両方を若い女性ですね。1人は『北条様』でしょう。足音に気品があります。もう1人は聞き覚えのあります……これは……」
ここでフレアの顔に薄い動揺が見られた。専門の精神訓練と戦場をを受けているので、顔に動揺が見られることが少ない。
もっとも……最近では義孝には動揺させられることが多いので、フレア自身は修業不足を実感しているのだが……。
「相変わらず、人間離れした感覚ね。わたくしには足音すら聞こえないわ……さすがフレアね。まあ、誰が来たかは予想はできるけどね……わたくしの将来の『義妹』よね? 大方、『北条』が如月と竜胆への牽制のために学校に送り込んだのではないかしら?」
「……私からしましたらお嬢様の勘の良さと、知恵、人を見抜く眼力の方が驚嘆に値すると思いますが……。『彼女』が英語教師として赴任したのは、私はてっきり『義孝様』を追いかけて来たものとばかり考えておりました……」
「その可能性も充分あったわね……まあ、そんな気構えることはないわ。気楽にいなさいな」
望がため息交じりでそんなことを言った時、望にも2人の足音が聞こえた……。
そして――。
『遅くったわね! 初めまして如月望さん。こうして会うのは初めてね。ふんっ、如月は無下にできないからね! 特別に時間を取ってあげたわ。感謝しなさい!』
『や、やっほー、望ちゃん……あ、あはは………』
体育倉庫に入って来たのは制服姿の北条夏輝と……スーツ姿のアヤメ・グレイブハートだった。
夏輝は自信満々で傲慢な態度だが、アヤメはどこかよそよそしい苦笑いが顔に張り付いている。
「ええ、ごきげんよう。北条さん」
如月家と北条家は表向きは良好な関係を築いているが……過去に都心の一等地の不動産の利権で衝突をしたことがある。その際は両社痛み分けの結果だが、日本の経済問題に発展しかけた……。
そのせいか両社の間では妙なライバル関係だけ強くあり、ギスギスした関係となっている、
なので、望としてはまともに『取り合いたくない』というのが正直な意見だ。
「……それとアヤメさん。あまり望んだ形の再会ではなかったのかしら?」
「そ、そうでござるなぁ……はぁ、割のいい仕事には裏があるというのは本当でござるな」
アヤメはため息をつく。
その疲れたような態度で望は現状を察した。
(なるほど……アヤメさんは北条の元で仕事をしているのね……目的は何かしら……? 短い付き合いではあるのだけど……アヤメさんが義孝さんの不利になることをするとは思えないのよね……でも……明確に敵対する気ではなさそうね)
そんなことを考える。
望としてはアヤメの笑顔を見て少しほっとした気持ちだ。
(義孝が悲しむ顔は見たくないものね……まあ、義孝さんの苦しむ顔は、胸の中でいけない感情が沸き立つ感じがするのも確かだけど……)
「? 望ちゃんどうかしたでござるか……? 難しい顔をしてるけど……わ、私がこの場に来たのがよくなかったでござるか?」
「えっ……? ああ……いえ、考え事をしていただけです。それでアヤメさんは――」
「あんたたち、私を無視するんじゃないわよ!」
望がアヤメに事情を聞こうとすると、その言葉を遮り、夏輝が不満そうな声を上げる。
「…………」
(彼女、わたくしとは合わなそうね……はぁ、義孝さんとお昼に行きたいわ……)
望はそんなことを考えながら窓から覗く、青い空を眺めた……。




