みんなでお昼ご飯(1)
それから1時間ほどが経過し、只今の時刻は12時20分――。
体育祭の昼休み前のピーク時も終わった。12時半から体育祭の休憩時間なので、学生たちはその時間から保護者と弁当を食べるらしい。
うちの営業時間もそのスケジュールに合わせたものになっており、そろそろ店を閉めていいことになっているので、三沢と新井は厨房を、俺と由衣は売店でそれぞれ片付け作業をしている
(ああ……また、周りにはひとっこひとりいないな……混んでる時と空いてる時の差が激しいな……)
「店長、お昼もすごいお客さんでしたね……でも、きちんと対応できてよかったです。早く片付けてみんなでお昼を食べましょう」
次の営業用の食材を整理しながら由衣が安心したように俺に声をかけてくる。
由衣の言う通り、昼の営業時間は問題なくクリアすることができた。これで後の大きな営業時間は体育祭の休憩時間である3時半からだけだ。
それまでは売店も閉店してもいい約束なので、俺たちは自由の時間を得たことになる。
「……………」
だが、俺の心は晴れない……。北条との『調査』の予定が心を重くしているかもしれない……。なんかなぁ、未来のことは心配じゃないんだよ? 心配じゃないんだが……はぁ。
それと、北条と行動するのも迂闊かな……でも、この進学校に転校してくるぐらいの力を持っているんだから、何かするならもうしてると思うしなぁ……。
念のためこの後すぐ実花に相談してみるか。あいつなら未来の状況にも詳しいだろうし。
「て、店長……」
考え事をして心ここにあらずという、俺の様子を見て由衣が心配そうに近づいてきて、俺の両肩を両手でつかむ。
目を見ると若干泣きそうになっており……本格的に心配されているようだ。
「えっ? ど、どうした由衣……?」
「そ、それはこちらの台詞です。て、店長、ど、どうしたんですか……? いつもの店長なら、休憩時間を見苦しいほどに死ぬほど喜ぶのに。な、何か悪い物でも食べたんですか?」
「……俺はお前が俺のことをどう考えてるのかじっくり聞きたい気分だ……」
いや、はっきり言われても立ち直れないかもしれないのだが……。
とか、考えていると……由衣は血相を変えて、俺に顔を近づける。はっ、近い近い! 頑張ればキスができる距離だぞ!
「なっ! そ、そんなこと言えるはずないじゃないですか!?」
「そんな顔、真っ赤にして否定することか!? それよりも近いって!」
「あ……す、すみません……」
由衣は自分の状況を改めて理解したのか、恥ずかしがりながら俺の肩を離した。そして、恥ずかしそうにそっぽを向きながらも、チラチラとこちらを見てくる。
「な、なんだよ。言いたいことがあるならはっきり言えよ……」
「て、店長、顔が赤いですね……もしかして、女の子馴れしてないんですか……?」
「うっせえよ!! それは30代の男に聞いちゃいけないことだろうが!! プロには馴れてるけど素人には馴れてないんだけだ!」
「し、素人って、いやらしい言い方をしないでください!」
俺はなんで周りに人がいないことをいいことに、売店で若い子とよくわからないことを言い合っているんだ……?
はぁ……むなしくなってきた。俺だって素人の女の子に馴れるぐらいの恋愛がしたい……だが、今はそんなことを考えるよりも……今日の予定を確認した方がいいな。
俺、こいつらに仕事以外の予定は任せっきりだったから、これから何をするかはよく理解してないし……。
「由衣、ちょっと聞きたいんだけど」
「何ですか……?」
まだ由衣の顔は赤い……お前のが異性に馴れてねぇじゃん……まあ、そんなとこは初心で可愛いと思うが……。おっと、それよりも由衣の話を聞こう。
「昼って葵ちゃんたちと合流して、みんなで食べることになってるよな?」
「はい、そうですけど……店長、来てくださいよ。店長が来ないと絆が悲しむんですから」
さっきまでの表情とは打って変わり、物欲しそうな顔をしている。どうやら、絆ちゃんを悲しませるのは避けたいようだ……。
まあ、気持ちはわかる……。
「ああ……さっきみたいに悲しませるのは避けたいからな……。それで、昼が終わったら、どうするんだ?」
「えっと、それから3時半の営業までは特に予定はないですね。仕事の準備もほぼ終わってますし、私たちが出るリレーは4時過ぎだと聞いてるので。空いてる時間は未来と実花の種目を見る感じですかね」
「そうか……」
それなら空き時間に北条との『調査』に出るのは問題なさそうだな……。これは他のやつらには内緒のミッションだ……なぜなら……なんか、娘を過剰に心配してると思われるのが恥ずかしい……。
ま、まあ、様子を見るだけだ……少しだけ。




