2人で店番
◇◇◇
一方その頃――。
売店では三沢麻依が暇そうに店番をしていた。
義孝と由衣と仕事を代わって10分が過ぎたが……いまだに訪れた客数は0人だ。
さらにはこの場所は校庭から近い位置にはあるが、来ようと思わないと通らない道なので、体育祭が盛り上がっている今は人通り自体が少ない。
「ふぁあああ、誰も来ねぇな……」
三沢は誰もいないことをいいことに大きく気伸びをして、だらしなく持ち込んだパイプ椅子にもたれかかる。
三沢は仕事は忙しい方が断然好きで、暇なのはどうにも性に合わない。
それと今仕事が暇だと面倒なことが1つある。それは――。
「はぁぁぁ、兄貴は音無に甘いんですよ。あいつは甘やかせば甘やかすほどつけあがるんっすから。くそ、兄貴に色目使いやがってビッチが」
「…………」
と、……悪態をついている相棒である新井のフォローだ。新井は店番を始めてからぶつぶつとずっと文句を言っている。
だが、口汚く悪態をついているにも関わらず、新井の天性の小物感のおかげで、嫌な感じはせず、むしろ三沢から見れば、焼きもちを焼いてふてくされている弟のようだ。
「新井、もうちょっと由衣と仲良くしろよな。その方がテンチョーも喜ぶぜ」
「くっ……それはわかっているっすけど。あの女は駄目っす。口うるさくて、猫かぶりで、さらには融通が利かない。兄貴とは釣り合わないっす」
「あはは。そうか? あたしは可愛いと思うけどな……面倒見がよくて、一途で優しくて、なおかつモデル並みの金髪美人だぜ」
三沢は笑いながらフォローする。本当に弟をたしなめているような気分だった。
そして、新井も三沢の言うことに思うところがあるのか最高に苦い顔をする。
受け入れたくはないけど、由衣のスペックが高いということを認めているようだった。
「はぁ、兄貴のモテ具合にもこまったもんっすよ」
「それには同感だ……テンチョーどんな星の下に生まれたんだろうな……望と明菜も頭がおかしくなるほどいい女だぞ」
新井は三沢の言葉を聞くと、先ほどまでの不機嫌さが嘘のように、機嫌がよくなり自慢げに話始める。
「望、っていうのよく学食を覗いているチビっすよね。ああ、あれは将来有望っすよ。他の学生共とはオーラが違う。ああいう将来性のある女は兄貴にとっても悪くない話っす。それと、夢野さんは文化祭の時に会ったことがあるっす。あれもいい女っすよ。ああいう、上品で包容力のある女こそが兄貴にふさわしいっす。だけど一番はやっぱり、実花の姉御と未来の姉御っすね。兄貴の正妻は彼女たち以外はありえないっす」
「……あ、あはは……そ、そうか……?」
さっきまでの不機嫌とは打って変わりめちゃめちゃ冗舌に語る新井に、三沢はドン引きだ。
(新井の中でテンチョーが神になってる……でも、去年の文化祭で『あんなこと』があっちゃ仕方ないか……テンチョーの人柄が神だということで納得しておこう)
三沢は去年の文化祭で新井と義孝の『出会い』を知っている……というよりは当事者の1人なので、新井の義孝への尊敬の心は少しは理解できた。
(まあ、新井は妙なところで常識をわきまえてるから、由衣の邪魔をすることはないからいっか。その分あたしに愚痴がくるが……中間職はつらいぜ)
そんなことを考えていると――。
「あっ、いらっしゃい! おい新井、客が来たぜ」
「へい、らっしゃませー」
2人は来た女生徒のお客に瞬時に対応しようとするが、その客は屋台の中を見ると小さく落胆の表情を見せた。
『ジョン君は居ないの……? 入れ違いになった感じか……』
店にツインテールの女生徒は不機嫌そうに小さく呟く。
この人物が新たな火種をまくことになる……。




