体育祭を眺めて(2)
それから数分後――。
俺と由衣は休憩から帰ってきた新井と三沢と交代して、校内をまわっていた。
周囲には生徒の家族が大勢おり、皆が体育祭に注目している。自分の家族が出るのを今か今かと待っているような空気だ。
『まもなく、二人三脚競争の時間です! 参加者は第一校庭に集合してください!』
『わああ、お兄ちゃんでるかなぁぁ!』
『ふふっ、それじゃあ、見やすい位置に行きましょうか』
流れる校内アナウンスに従い観戦者が移動を開始する。この学校は校庭が2つあるから、種目ごとに観戦者が移動する必要がある。
うむ……この学校生徒数が多いからな……保護者を呼べば必然的に大規模にもなるか。こりゃまるでお祭りだな。人の波で通路が狭い……。
「こりゃあ……葵ちゃんたちがいる場所に行くのは時間が掛かりそうだな。あいつらも移動するだろうし」
「そ、そうですね……ふ、ふふっ……」
うーん。なんかさっきから由衣の態度がぎこちない……緊張しるような、何かを気にしているような……そんな感じだ。俺知らずに何か地雷を踏みぬいたのだろうか……。
さて、この気まずい空気をどうした物か……とりあえず喋ろう。俺からお喋りを取ってたら何も残らん。
「どうやら、観客席からは生徒たちがいる場所には行けないみたいだな。ちぇ、せっかく娘たちをからかいまくって」
「そ、そうですね…………あ、あはは……」
だ、駄目だ……由衣がなんか壊れたロボットのようにぎこちない笑顔を向けてくる。んー、本当にどうしたんだ? 2人で出かけるのも初めてっていう訳でもないのに……てか、今よりデンジャラスな状況だった膝枕の時は平気だったじゃん……
◇◇◇
現在、音無由衣はここ最近で一番緊張していた――。
それもこれも……昨日の夜、『絆と話したこと』が頭にこびりついているのと……『その時間』が近づいていることもあり、妙に義孝を意識してしまっているからだ……。
(うぅ……朝は平気だったのに……いや、あれは現実逃避して膝枕を楽しんでただけよね……はぁ、私、店長に現実を見ろなんて言えないじゃない……)
そんなことを考えながら由衣はちらっと、前を歩く義孝を盗み見る。
「…………うぅ」
(て、店長を見るだけで顔が熱くなってる気がする……だって、もしリレーで勝てたら私……はぁ……私、重症ね……)
そもそも由衣がこんなにも義孝を意識している理由は、昨日の夜にさかのぼる――。
昨日家で絆をいつも通り布団に寝かせ、寝るまで隣に寄り添っていた。いつもならすぐ寝る絆だが……体育祭が楽しみだったのか、いつも以上に楽しそうに由衣に話しかけていた……そして、絆が無邪気に言う――。
◇◇◇
『まんまはおじちゃんのことだいすきなんでしょ!』
『……えっ、き、絆? な、なんでそんなこと……』
『みてたらわかるもん!! ねぇねぇ、おじちゃんといつけっこんするの!! きずな、おじちゃんと、みきちゃんと、みかちゃんとくらしたい!!』
◇◇◇
正直……思考が止まった。確かに由衣は絆には義孝の話を夜な夜なしていたが……まさか想いに気がつかれるとは思っていなかった……。
そして無駄に頭の回転が早い由衣は……『絆も自分と義孝が一緒になることを望んでいる』……と、考え……もんもんとしてしまい……昨日はあまり寝られなかった……。
(はぁ……リレーで勝ったら『あのこと』を店長に言おうと思っていたけど……こ、告白してもいいのかな……で、でも、互いに子供がいるんだし……それにもし振られたら……)
そんな考えが時間が経つにつれてどんどん酷くなっていた……。
「おい由衣、ちょっといいか……?」
「えっ!? は、はい、何ですか?」
その時前を歩いていた義孝が、振り向き話しかけてきた。妄想にふけっていた由衣は慌ててしまう……。
「いや……今から実花と未来が二人三脚に出るっぽいんだ……葵ちゃんたちと合流する前に見ていってもいいか……? いや……そんな大事じゃないんだけど……」
義孝は興味なさそうなふりをしながら、校庭の方を見ている。
その視線を追うと、実花と未来が嬉しそうにこちらに向けて手を振っていた。
(ふふっ……仲よくていいな。店長と娘たちが互いに想いあっているのが伝わってくる。本当にいい父親だな……そんな店長だから私は……)
由衣はそんなことを考えながら、義孝の言葉に頷いた。




