営業開始!(2)
地獄の営業が始まって15分――。
俺、自分で言うのもなんだが……頑張ってると思う。いや、いつもは文句ばかり言ってるだけのダメ中年だという自覚はあるが……。
今日は間違いなく頑張ってる。
屋台の前には最初よりも少しは減ったとは言え、まだ30人は並んでるし……。
ちなみに葵ちゃんと由衣が接客で俺が料理を用意するポジションだ。料理は出来合いの物が多いし、わたあめやポップコーンなんかは準備するのにそこまで時間が掛からないが……。
いかんせんお客さんが多すぎる……。
「はい!! わたあめ3つとポップコーン4つ! さらにはタピオカドリンクが5つだ! 馬鹿野郎が!! けっ!!」
「せんぱーい! 悪態つかないでくださいよ~。さらに弁当が5つと! 焼きそば! さらにホットドックが2時つ! さらにさらにチェロスが4つです!!」
「あっ! 店長! こっちもわたあめ、ポップコーン、カフェラテが各4つです! わたあめはピンクでお願いします! ものすごく可愛くしてください」
鬼か。
出来合いが多いとは言え、1人でさばける量じゃねぇよ……こんなことなら調子に乗ってメニューを増やすんじゃなかった……。
ああ、この仕事に押しつぶされるような感覚は社畜時代に日常的に持っていた絶望感だ……。
その中で生き生き働いてる葵ちゃんと由衣がすげぇ眩しく見える……ああ、俺も若い時はあんな感じでキラキラしていたのか……とか考えちゃう。
「先輩! 何でぼっーと、私たちに見惚れてるんですかぁー……きりきりと働いてくださいよぉ……」
「て、店長が見惚れて……て、て、店長、さらにから揚げと、お弁当に追加……あ、あと……わ、私のどの辺に見惚れて……」
「…………」
おい、露骨に照れるんじゃねぇよ。お客さんが微笑ましいものを見る目で見てるじゃねぇか……。こっちまで恥ずかしくなってくる……。
「ふふふっ、ゆいっちは面白いなぁー。先輩にはもったいない……」
「ん……? 今何か言ったか……? はっ! 注文か! 注文なのか……!?」
「いーえ。なんでもないですー。それより、援軍はまだですかぁー。三沢さんと新井っちはどうしたんですかぁ。そろそろ限界ですよー?」
葵ちゃんの言う通りだ……食材は僅か15分でつきそうな商品もちらほら……さらにそろそろ体育祭の開会式が始まるので、早めに対応をしてあげたい。
「おっ! 三沢たちが戻ってきたみたいだな!」
校門の方から大きなビニール袋を抱えた三沢と新井が走ってくるが……。
ん? あれ……?
「よ、義孝さん…………!」
あ、明菜……? 明菜もビニールを持ってる……買い物を手伝ってくれたのか……? んんーー? よく見れば新井が絆ちゃんを背負ってるな。絆ちゃんは寝てるのか……? どういう状況だ?
「えっ……き、絆。ね、寝ちゃったんだ……今日を楽しみにして……昨日夜遅くまで起きてから……」
たったった。
そんな由衣の呟きをした頃三沢たちが屋台の前に到着した。
「テンチョー、すまねぇ! 時間かかった!」
「いや、大丈夫だ。それよりすぐに弁当とパンの追加分を作ってくれ」
「おう! 任せてくれ! 瞬殺で作ってやるぜ!!」
三沢は明菜と新井から大量の荷物を受け取り、屋台の傍に置いてあった台車に荷物を乗せて厨房に向けて走り出した。
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
まるで暴走車両だ……頼むから事故らないでくれよ……。
「新井はこっちの販売を手伝ってやってほしんだけど……お前は何で絆ちゃんを背負ってるんだ……?」
「兄貴! 聞いてくれよ! このガキ、朝早く起きたとかで、途中で寝ちまって……」
いや、だからどういう状況だよ……。近所のスーパーでどんな壮大なドラマがあったんだよ……って、今はそれどころじゃないか。
「明菜、悪いんだけど絆ちゃんの面倒を頼めるか……?」
「はい、ま、任せてください。新井さん、絆ちゃんはわたしがあずかります」
「ゆ、夢野さん……す、すみません……迷惑かけて。あ、新井さんも……」
「今は謝罪なんていいんだよ! お客さん待ってるんだからっ! 兄貴の右腕の俺様の出番だぜ!!」
「……店長の右腕は私です」
……こいつら、こんな時によくわからんことで喧嘩するんじゃねぇよ……。
「せ、先輩たち! ちょ、ちょっと! は、早く仕事に戻ってくださいよ! 社畜に休む時間なんてないんですよぉ……呪われたゾンビの様に働くんです」
……葵ちゃんがダークサイドに落ちそうだ……働こう。
まあ……でも、これで……何とかなりそうだな……はぁ、頑張ろう……。




