営業開始!(1)
謎の美少女『北条』に絡まれてから数分後――。俺は何ともいいようない不安を抱えながら社畜精神に従い、俺は今日の主な職場である売店に戻っていた。
うーん、普通に考えれば美少女JKと接点を持てたんだから、男としては踊りだしてもいいぐらい素晴らしいことだとは思うんだが……。
「…………」
あいつは危険な気がするんだよなぁ……何となくだけど……。
まあ、でも今はあいつのことを置いておこう。
今はそれよりも気にしなければならないことがあった……それは――。
「な、なんだこの客の数は……現在進行形で増えてるんだが……」
「す、すごいですね……遊園地のアトラクション並みですね……」
開店まであと3分――。
俺と由衣は屋台の前で呆然としていた。
『この屋台が『噂の屋台』ね。品揃えもいいいみたいだし、お弁当作る暇がなかったから助かるわー』
『ままー、わたしわたあめがたべたい!』
屋台の前には50人ぐらい人が並んでいた。小さい子供や親で賑わっている……。ここ数分で並び始めたんだが、明らかに計算外だ……。
えっ? もっと、ほのぼのとした感じの営業かと思ったんだが……。
文化祭の時はそこそこ忙しい程度だったのに……これじゃあ、超人気店じゃねぇか……。
「……なぁ、由衣。実は教頭から有名な和菓子を昨日貰ったんだ。スマホで調べたら美味しいって評判でさぁ……今からふたりで食べないか……?」
「み、魅力的な提案ですが……だ、駄目です。もうっ……店長、もう少し現実を見てくださいよ……前を向いてください」
普通に怒らた。
「いや、でも……これは話が違う……話が違うだろ。くっ、しまった……文化祭の時と違って売店がうちだけっていうのを甘く見積もり過ぎてた……」
「そ、それはそうですね……でも、それにしても……何でここまで行列ができてるんでしょうか……? 別に宣伝していたわけでもないのに……しょ、食材足りますかね……」
「それは三沢たちが何とかしてくれると信じよう……」
食材は念のため多めに仕入れたけど……これはさすがに予想外だ。注文メニューが偏ったら一瞬で売り切れになる。
それを防ぐために三沢と新井を近くの24時間営業のスーパーに走らせた。
……それまでは持つと信じよう。
でも……最大の問題は――。
「はぁ、でもこれはふたりでどうにかなる人数じゃないよな……」
「て、店長、私頑張ります……と、言いたいですが、ちょっとこの人数は厳しいですよね」
うむ。由衣はいい意味で現実を見てるな。社畜にはあきらめが肝心だからな。こういう時はすぐに助けを求めるのが重要だ。
メニューの提供が遅くなってクレームなんか来たら最悪だし……。
(でもなぁ……実花未来はまだホームルーム中……というか、生徒に手伝わせるのは問題があるか……あいつら体育祭の参加者だし。前に休日に未来にバイトを頼んだ時とは状況が違うし……はぁ、どこかに馬車馬のように働く都合のいいやつはいないか――)
『おおっ、人がいっぱいるなぁ……ちぇー、先輩にかまって貰おうと思ったのにぃ。先輩は所詮社畜だなぁ。あっははは』
今人混みから、聞き覚えのある声が聞こえたような……。
『はぁ……さすがにねむぃ……。私もきずなっちを迎えにいったゆめゆめについて行けばよかったかな……でも、眠そうな顔で音無家に行くのもねぇ……ふぁぁぁ』
「ああああっ!! 葵ちゃん!? いた! 都合のいい奴が!」
俺の10メートルほど先に上品にあくびをする葵ちゃんがいた。なんということだ……あいつは社畜の神に愛されている!
「へっ……せ、先輩……?」
そんな俺の歓喜の叫びに気が付いたのか、顔を盛大にしかめる。
「あ、ああ……この流れ、私知ってる。し、仕事ですか……? 何かトラブルの匂いがします……」
「さすが現役社畜! 察しがいいな!」
「葵さん! 手伝って下さい……!」
俺と由衣が詰め寄ると、葵ちゃんは大きくため息を吐く。「仕方ないなぁ……先輩はまったく」みたいな反応だ。
「はぁぁ、先輩だけじゃなくてゆいっちに頼まれたら、断れないなぁ……ふふっ、先輩。貸し1つですからねっ!」
葵ちゃんはそう悪戯っぽく笑った。
ここまで頼もしい助っ人はそうはいない。今の俺には葵ちゃんが女神に見えた。




