宣戦布告(2)
「さあ、次はあんたが名乗りなさいっての」
北条と名乗った少女は俺の動揺を知ってか知らずか、堂々と悪びれもなく、俺に強気な視線を送ってくる。どことなく挑発的な感じだ。
(気の強いやつだな……はぁ、明らかに俺の手に負える系の女じゃない……俺の勘が囁く……こいつは如月と同じ匂いがする)
「ん? あんた……なんか失礼なこと考えてない? いいから名乗りなさいっての」
し、しかも勘も鋭いんですか……。くそ、ここは適当にあしらう形で逃げよう。こんな美少女相手に逃げるとか男として終わっている気もするが……これ以上の面倒ごとはごめんだ。
「名前は……山田孝之だ」
「……大真面目に大嘘ついてるんじゃないっての」
うむ。だから「これ以上は聞かないで!」オーラを存分に出しているのだが……北条はそんな俺のことを気にする様子もなく、さらに詰め寄ってくる。
ち、近い……もう遠くから見たら抱き合ってると勘違いされる距離だ。
「いいから、本当のことを言いなさいっての」
「…………」
うむ……若い時ならドギマギしながら本名を教えていただろう。
しかし、俺ももういい歳だ。少し美少女が近くにいたぐらいで動揺することはない。
ふっ、伊達に風俗通いをしていたわけではない。
「スリジャヤワルダナプラコッテだ」
「……なんでスリランカの首都なのよ……」
あっ、これわかるんだ。勉強はできるのかもしれない。俺は風俗嬢のトークでネタになるから覚えてたけど……。
「はぁ、らちがあかないわね……あまり時間がないってのに。ただ名前を聞くのにここまで手こずったのは初めての経験よ」
「そんなに褒められても困る」
「褒めてる訳ないじゃない!」
「まあ、知ってる」
「はぁぁぁぁ、頭痛いわ……」
北条は頭を抱えながら、3歩後ろに下がる。
すみません、面倒な性格で……でも、そろそろお暇したい。適当なこと言って去ろう。
「なあ、そろそろーー」
「さすがは竜胆家の人間ね。噂では変人揃いと聞いていたけど……本当だったってことね」
その言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中には美奈、実花、未来、の奇行の数々が浮かんでくる。
そうか……俺も一緒……おい!
「待て! 俺をあの変人供と一緒にするんじゃねぇ! 俺は真人間だ!」
あっ、条件反射的につい……でも、これは仕方ない。人には最低限のプライドがあるんだ。
「変人のプロフェッショナルであるあいつらと、おなじフィールドには立てない」
「あんた……よくわからないことを言うわね……私から見ればあんたも充分変人よ。なにせ本名すら名乗ろうとしないのだから。人としての礼儀はどこに置いてきたのかしら?」
嫌味っぽく言う北条。うむ。まったくおっしゃる通りだ。だけどなぁ……関わるとろくなことがない気がする……こいつ俺が竜胆の関係者だって知っているっぽいし……。
そういやあ、未来に言われてたな。
『竜胆の名前を利用しようとする人たちは多いです。お父さんは表向きは竜胆と無関係ですが……でも、もし……そういう可能性がありそうな人たちと会ったら、個人情報は渡さないでください。
お父さんの身に危険が及ぶかもしれないので……』
とか……やたら深刻そうな顔で言ってたな。
はぁ、ここは大人気くて悪いけど偽名を押し通そう……力技で。
もし、未来と話して、問題ないなら後でこいつに謝ろう……。
「俺の名前はジョンだ……」
「ジョンって……誤魔化すにしても、もう少しなんかなかったの?」
北条は呆れながらそんなこと言ってくる――。
「…………」
そんな北条を俺は真剣に見つめる。それはもう戦場に向かう兵士の様に覚悟を決め、魔王の城に乗り込む勇者の決意を秘めたような空気をかもし出す。
そんな俺の空気……というか演技に騙されたのか、今まで余裕があった北条が一歩たじろく。どうやら俺の演技にのまれたようだ……。
「な、何よ……真剣な目で見て……な、なんか言いたいことがあるっていうの?」
「ああ、俺はお前に『ジョン』と呼んでもらいたいんだ。お前だけに……」
確か昨日見たドラマでホスト役のクズがこんなこと言ってたけど……効果あるか……これ……? まあ、効果なくても、ドン引きさせればいい。
ふっ、俺は女をドン引きさせることにはちょっとした自信があるんだ……言っててむなしくなるけど……。
「…………」
とか考えていると、北条の雰囲気が変わる。呆れた感じはなくなったが……なんだか熱っぽい視線を感じるんだが……。
「わ、私だけに呼んでもらいたいなんて言ってくれるじゃない。ふんっ、仕方ないわね。あんたがそんなに望むなら呼んであげないこともないわ。か、感謝しなさいジョン君」
「…………」
頬を赤くしてそっぽを向く北条……おい、こいつは何を言ってるんだ? えっ? 今の効果抜群だったの!? あの意味のわかんない言葉が!? こいつチョロすぎないか!?
お、俺今からジョン君って呼ばれるの……? マジ勘弁なんだけど……。




