朝のお仕事(4)
さあ、どうしようこの一生にあるかないかのシチュエーションは……。
「とりあえず、義孝さんに大事がなくてよかったのだけど……これはどういう状況なのかしら……?」
如月の戸惑いの声が聞こえてくる……まあ、気持ちはわかる。食堂の事務所にやってきたら、おっさんが美少女に膝枕をされて爆睡しているのだ。
……うむ。我ながら意味がわからん状況だ。
まあ、寝たふりを続けてる俺が1番状況を混沌にしている気がする。いや、とっとと、起きたらいいのはわかっているのだが……。
「き、如月さん……こ、これは……」
「い、いえ……事情は推測がつくので大丈夫です。はぁ……最悪な事態が考えに浮かんで取り乱してしまいました……病気か何かかと。まったく、わたくしも未熟ね……」
「お嬢様……大切な人を失うかもしれない恐怖はすぐに克服できるものではございません。人間である限り……。私はそれを戦場で思い知りました……」
……待て。話が重い。
それに……事情は分からないが如月は俺のことを本気で心配していたらしく、まだ声に緊張が滲んでいる……。それに関しても罪悪感が……。
(寝たふりをしているから、詳しいことはわからないが……場の空気は重い……)
「…………」
めっちゃ起きづらいが……ここで起きないと……もっと状況が悪化しそうな予感が――。
「き、如月さん……ひとつ聞いてもいい?」
「えっ……ええ、何でも聞いてくださいな」
そんなことを考えていると由衣が緊張をはらんだ声で如月に話しかけた。如月はもう落ち着いたようで、冷静な声色で由衣の言葉に対応する。
「如月さんって店長のこと好きなの……?」
「…………」
はっ……? お、お前は女子高生になにを聞いてくれちゃってるの……!?
「ええ、世界で一番深く愛しているわ。もう、深海にあるアトランティスがある場所よりも深い深淵の愛よ」
お前もお前で何を自信満々に答えてるの!?!? 俺への愛がどれだけ深いんだよ!! もう、どう反応したらいいのかわかんねぇよ!!
あ、ああ……増々起きづらい……。
「……そう」
ああ……俺に膝枕をしている由衣の気配に邪悪なものが混じった気がする……。まあ、俺が高校生をたぶらかしているとか、思われているのだろうか……?
「ふふっ……由衣さんってとても可愛いわね……」
だが、如月は由衣のそんな邪悪な気配を気にする様子もなく、優雅なに笑い声を漏らす。ど、どういう状況なんだ今……。
だけど……今『実は起きてました!! テヘ!』とか、言っても誰も幸せにならないだろう……。俺の社畜で培った勘がそういっている。
「な、何よ。可愛いって……」
「いえ、失礼しました。歳上の女性に言うことではなかったわ……でも、わたくしのことが気になるのかしら……?」
「そ、それは……そう、店長が未成年に手を出して営業停止になるのが困るの! 店長って呼吸するように女の子にちょっかいを出すから。あれはもう病気なのよ!」
おいおい、泣くぞ? 俺泣くぞ? 寝たふりしながら一滴の尊い涙を流すぞ。こら。
「ふふっ、ご忠告、心にとめておきますわ。あら……?」
「ん……? 如月さん、どうかしたの?」
んん……な、なんか視線を感じるんだが……。
「いえ……フレア、もしかして……気が付いていたのかしら?」
「は、はい……私は近くで生物が活動していたらわかりますので……恐らく最初からかと……」
フレアさんが言いずらそうにそう言う……あ、あれ? も、もしかして、バレてる……はぁ、まあそうか。いくら俺が寝たふりを極めていたとしても……人間兵器のフレアさんを誤魔化せるわけないか……。
「ふふっ、そう……」
何かを納得したような如月の悪戯っぽい笑い声。
「わたくしたちはこれで失礼します。また後程お会いしましょう……行くわよフレア」
「はい、お嬢様。音無様失礼いたします」
「えっ……ちょっと……」
ガチャ。
どうやら如月は出て行ったようだ……そして、事務所には全く事情を把握できてない2人が取り残される……俺はまだ寝たふりしてるし……。
「い、行っちゃった……な、何だったのかな……?」
いや、俺にもわからねぇ……はぁ、タイミングを見つけて起きるか……。
その後……三沢がやってきて、俺は普通に怒られた……なんか朝からめっちゃ疲れた……でも、由衣は何で如月にあんなことを聞いたんだろうか……?




