次女とお隣さんとプラス
一方その頃、川島家にて――。
現在の時刻は午前5時半をまだ回っていない。
登校時刻は8時なのでまだまだ時間に余裕があるが……制服姿の未来は起きていつもよりも念入りに髪をとかしていた。
(……お父さんに可愛いって言ってもらえたらいいな……)
そんなことを考えながら鏡の前でかれこれ30分。
未来としてはまだ満足していない。今日は自分たちを見に父親が体育祭に来るのだ。
それならば少しでも可愛いと思ってもらいたい……そんな乙女心が未来を鏡の前に縛り付けていた。
「うぅ、むにゃ……パパぁ……ああん、んん……そ、そこはぁ……」
ちなみに未来のとなりにはやたら色っぽい声色で寝言を口にしている姉の姿があった。未来としてはいつもの光景なので、スルーが安定ということはわかっていた。
(お姉ちゃんは本当に朝弱いですね……まあ、7時過ぎに起こせばいいでしょう。私はその間に……『約束』に……)
未来は姉の身体をまたぐと、マンションの廊下に出る。朝の新鮮な空気を吸うと清々しい気分になる。
(いい天気ですね……よかった。晴れてくれて……)
未来は青い空を見上げながら、スマホを取り出し、とある電話番号にかけると……『ピピピピピピ……』と、未来が出てきた隣の部屋からスマホの着信音が流れる。
すると――。
ガチャ――。
「あっ! 未来ちゃん、いらっしゃい」
明菜が明るい笑顔で自分の部屋の扉から顔をのぞかせる。
そう、未来と約束していたのは明菜だ。ふたりで今日の体育祭用の弁当を作ることになっていた。
「今日はよろしくお願いします……」
未来と明菜は義孝抜きでも友好的な関係を築いている。2人共真面目で勉強家なので、そんなところが気が合うのだろう。
もっとも……未来は明菜に対して持つ一番の感情はライバル心だったりするのだが……。
(……夢野さんは強力なライバルです。その料理技術を盗むいいチャンスです)
「さあ、未来ちゃん、入って入って」
そんな考えを知らない明菜は無邪気に自分の家に招く。
(うぅ……同性でも可愛いと思います……)
未来はそんなことを考えながら、小さく会釈をして家の中に入る。見慣れた間取りを進み、キッチンに着くと、そこには既に多くの食材が用意されていた。
明らかに10人前ぐらいの量があるのが……気になるが……それよりも未来が驚いたのは……。
『あっ! ヤッホーみきみき! 相変わらず美少女だね! とてもじゃないけど先輩の遺伝子が入ってると思えないなぁ……』
夢野家のリビングにはくつろいだ様子でお味噌汁をすすっているスーツ姿の葵がいた。
目の下にはクマがあり、テンションも妙に高い……。
「葵さん、おはようございます。早いですね……それと、お父さんの遺伝子は私の中に満ち溢れています。もう、愛のタイフーンです」
「う、うん、真顔でそんなメルヘンなこと言われると反応に困るなぁ……」
「本当のことなので。それで……葵さんは……」
「私は仕事帰りなんだぁ……あははは……30時間ぶりの娑婆の空気は美味しいなぁ……私このままここで仮眠とって体育祭に行くんだぁ。着替えも持ってきたし! ゆめゆめがシャワーを貸してくれるっていうし!」
そう言う葵の瞳には色彩がない……未来はそこには触れないことにした。「社畜はそっとしておけ」と、川島家では毎日のように言われている。
「あっ、未来ちゃんも朝ごはん食べますかぁ? まだ時間に余裕はあるし」
「……えっ?」
「ふふっ、未来ちゃんも一緒に食べようよぉ。皆で食べると美味しいよ」
「は、はい……」
ニコニコと話しかけてくる明菜に未来は思わずうなずいてしまう。
すると明菜はパタパタとキッチンに向かっていく。
(ゆ、夢野さんにはつい甘えたくなる包容力がありますね…こ、この有無を言わせない空気が女子力なのかな……)
未来は嬉しそうに料理を用意する恋のライバルをジッと見つめて、観察することにした。




