朝のお仕事(1)
そんな朝一幕のあと――。
朝一で本社から食材と機材が届き、俺たちは作業に取り掛かる。
三沢と新井は厨房の方でパンの焼き上げ作業をし、俺と由衣は本社から来たものを確認していた。
(本社から来るのがぎりぎり過ぎる気がするが……昨日の夜まで別の現場で使用していたらしいから仕方ないか……)
そんなことを考えながら、俺と由衣は事務所で食材の入った段ボールを前にしゃがみ込み、仕分けをしていた。段ボールの中はポップコーンの素やわたあめの砂糖の等々だ。
午前中だけで売り切れると問題なのでそこそこ重要な作業だ。
だが眠気には勝てない俺がいる……。
「ふぁぁぁぁぁ、どれぐらい売れるかいまいちわからないんだよな……」
俺が大きくあくびをすると、近くで同じ作業をしていた由衣が心配そうに俺の顔を覗き込む。元々1メートルも離れていなかったが、由衣が顔を近づけたのでその距離は数10センチなる。
その距離の近さに年甲斐もなく動揺してしまう。距離が近くなるのは昨日の今日だしな……。
「店長、眠そうですね……大丈夫ですか? 仕分けは私がある程度把握してますから、店長はそこのソファーで横になっていて下さい。皆も店長が一生懸命だったのは知ってるから、賛成するはずです」
「…………えっ?」
「あ、でも……私だと最終判断はできないので、最後には確認してくださいね」
「…………」
優しく笑う由衣。
い、いや、さすがに部下に仕事を押し付けて隣で寝るとか……それは俺の中の良心が痛む……。社畜時代に上司にされたことはあるが……あの時は普通に殺意を覚えた……。
というか……由衣は気遣いができて優しいよな……それにめっちゃ甘やかしてくれるし。気を抜くとダメ人間になりそうだ……。
「い、いや、いいって。俺がやらなくちゃいけないことだしな」
俺は照れながらぶっきらぼうにそんなことを言う。
だが、そんな俺の言動を由衣はマイナス思考に捉えたらしく、慌てた様子で悲しそうに空笑いをする。
「あ、あはは……す、すみません。余計なことでした……そ、そうですねよね? 私に任せられるお仕事ではないですよね。ごめんなさい……」
「い、いや……そういう訳じゃない。ただ社畜は自分の仕事にしがみつないと生きる価値を見失う生き物なんだ。だから由衣とはいえ譲ることはできない」
「そ、そうですか……でも私店長に休んでもらいたくて……店長、本当に眠そうで……ここ最近働きづめだったから、疲れた顔をしてるのが、心配で……」
俺の社畜心に納得はしたようだが……まだ心配そうな顔をしている。どうしても俺に休んでもらいたいらしい。
お、俺そんなに疲れた顔をしてるのか……? 元社畜としてはこれがデフォルトなんだけど……。
「…………」
「…………」
う、うむ。このむずがゆいような空気は苦手だ。そうだ。得意なセクハラでおちゃらけてこの場の空気を和ませよう。
「うーん、由衣が膝枕をしてくれるなら寝るのもやぶさかではない」
「は、はい! わ、わかりました。ではソファーに移動しましょう。仕分け作業は店長に膝枕をしながらでもできますから。ふふっ」
「…………」
どうしよう! なんか超ご機嫌でめっちゃくいついた!!!
は、はい? 俺の予想では――。
『……店長は部下にそんないかがわしいことを頼むんですね。ふーん、そうですか? 生ごみと同じですね。いえ、生ごみの方が肥料になるので優秀ですね。生ごみに土下座してください』
「…………」
「ふふっ、えっと……段ボールを移動させて……あっ、書類もテーブルに用意しないと」
由衣は立ち上がると、テキパキとソファーの隣に段ボール等を移動させていく。とてもではないが……「嘘でした。てへぺろ」と、言える空気ではない。
えっ……? マジでするのか……? こ、ここは神聖な職場だぞ?




