いつもの日常(6)
「それじゃあ、失礼します…………」
営業時間がついさっき終わり、俺は今日のトラブルをエリアマネージャーである生名さんに電話報告した。よかった……予想通り、大ごとにはならなそうだ。
「…………はぁ」
俺は椅子に大きくもたれかかり、息を吐く。
今日は大変だった……。大型連休明けで久しぶりに働いたせいと、やけに客が多かったせいで、心中は妙な達成感で溢れていた。
まあ、この後も仕事が山盛りなので何も安心できないんだけどな……大量の洗い物に発注、体育祭の打ち合わせ、等々。
あっ……あと、スチコンちゃんの修理依頼か……。スチコンが直らないと明日の営業に支障が出そうだな……はぁ。
「…………落ち込んでも仕事は減らないか…………」
「店長、電話終わりましたか……?」
「テンチョー、生名の奴はなんて言ってた……?」
その時、由衣と三沢が事務所に顔を見せる。三沢はまだスチコンの件を気にしているのか、表情はいつもよりも暗い。
「ああ、大丈夫、大丈夫、問題ねぇってさ。むしろすぐに海老カツに変更したのを感心してた」
「そ、そうか……店長のおかげだな! あたしだけだったら、スチコンをどうにか直そうとしてたかもしれないからな」
「そんな褒めんな。変な諦め癖があるだけだ。諦めるっていうのは1つの真理なんだ。風俗に行ってもしも好みとはかけ離れた女性が付いたら、すぐに諦めて第三の心の目をもってして好みの女性を妄想して楽しむのが俺だ」
「…………テンチョー、褒めてんだから素直に受け入れろよ」
いや、俺もそう思うんだけどな……でも、普通に褒められるのは照れる。なんか抗いたくなる……ボケたくて仕方なくなる。もう病気だ……自分でも損な性格だと思う。
「よし、あたしは昼飯の用意してくるから、テンチョーは『由衣のご機嫌取り』頑張れよ?」
三沢は不安がなくなったからか、明るい表情で事務所を出ていく。
ん……? なんだその仕事は……。
「…………ふーん、風俗ですか」
……あっ……しまった。
いつものめんどうなやつだ。いや、今回に関しては俺が100パーセント悪いんだけど……。
「ふーん、店長って第三の心の目なんていうすごい特技を持ってるんですね……すごいですね。ほんとうにすごいですね……ふーん、すごいですね……すごいです」
語彙力が低下してすげぇ怒ってる……瞳に色彩はなく、死神のような目で俺をにらみつけてきてる。
「はぁ、店長は本当に不潔です……風俗に行くなんて……そんな所に行くのは最低な人間のすることです」
「…………」
年頃の娘が風俗に嫌な感情しか抱かないのは理解できるが……その意見は全国の風俗に夢や希望を抱く男たちに対して侮辱だ。
……まったく、こいつは相変わらず潔癖症だな……俺がセクハラしてるのはこの際盛大に棚に上げるとして、こいつは男の夢をどのぐらい許してくれるのか、気になってきた。
「由衣、もし彼氏が風俗に行くのが趣味だったらどうする?」
「去勢します」
「即答!?!?」
「いや、普通の反応だと思いますけど……何でそんな困惑しているのか理解に苦しむんですけど……普通の子は大体嫌がります」
「い、いや、家の娘たちは嫌がるどころか、むしろ行けって……」
「実花と未来は頭おかしいので」
「…………」
否定できねぇ……! むしろその意見には同意する。
「店長……」
俺が何も言い返せないでいると、由衣が聞きづらそうに口ごもっている。
明後日の方向を見て……こちらに視線を合わせてくれない。
「な、なんだ……?」
「店長はもし……付き合っているいる人がいて……嫌だって言ったらどうしますか……?」
由衣の声は消え入りそうな声だ。チラチラこちらを伺っている。
いや……こいつは俺を何だと思ってるんだ。
「お前なぁ、さすがの俺も家族が嫌がれば一生行かないぞ?」
「えっ? ほ、本当ですか……?」
「ああ、家族が嫌がることはしない。というか、普通は嫌がるっていうこともわかってるからな……?」
まあ、家族に進められれば「ありがとうございます。毎日でも行きます!」って感じだけどな……。
でも、これは言わない方がよさそうだな。なぜなら……。由衣がとても機嫌がよさそうだ。
「…………そっか、ふふふっ」
由衣は自分の上司がどうしようもない非常識人じゃないとわかって安心したのか、ほっとしたように微笑む。
(これからは風俗ネタも由衣の前では控えたいな……慌てると反射的に出るからどうしようもないんだけど……今もこの空気がくすぐったいのでボケたい……)
だが、そんな衝動を抑える……今はこの笑顔を見て満足しておこう。




