いつもの日常(5)
なんやかんやトラブルのあった営業時間のピークも無事に過ぎた。
あれから結局スチコンは直らなかったが……不幸中の幸いか、直前にメニューを変えたにもかかわらず、クレームはまだきてない。
これからくる可能性もあるが……今きてないなら温度感は高くないはずだ。
マジでよかった……こんなこと始末書を書くとか馬鹿らし過ぎる。
「店長、学生さんも落ち着いてきましたね」
「はぁ、何とかなったな……後は消化試合みたいなもんだ」
俺は由衣と2人でカウンターに立ちながら、安心で思わずため息が出た。
ちなみに三沢と新井は全力で洗い物をしている。
それで、現在は学生の昼休みが終わるまであと30分――。この時間になるとようやく一息つける……。
学生もうぱらぱらとしか来ず、食堂もだんだんと空いてくる頃合いだ。まあ、みんな教室に戻ってお喋りしたり、校庭に出てスポーツをしたりして青春の1ページを謳歌するのだろう。
だが、そういうのと我が娘は別らしい。
「お父、店長さん……また、来ちゃいました」
未来が機嫌よさそうに提供カウンターまでやってくる。
「いらっしゃいませ……」
俺としては娘にそういう青春を送ってもらいたいのだが……。
というかこいつはいつも1人だな。もしくは実花と来ることもあるけど……友達っているのか……?
「…………」
い、いや、親が学校にいるっていうだけど、子供は不快に思うだろうし、俺が学校生活のことまで首を突っ込むのはどうなんだろうか……?
「うん? おと、店長さん、どうしたんですか……? はっ、まさか、私に欲情してるんですか? よければ下着を――」
「お前って友達いないの? ボッチなのか? 孤独で死にそうで、俺に会いに来てるのか? 寂しいやつだな」
ただの真顔で言う。
すると未来は少したじろぐ。
「…………中々、心をえぐるようなことを言ってくれますね」
「はぁ……未来の言葉もどうかと思いますけど、店長も言い過ぎです。店長ってデリカシーないんですね……」
「…………」
いや、だってこいつが他人に聞かれたら俺が一発で捕まりそうなことを言うから……わ、わかった。俺が悪かったから、お前ら、そんな冷たい目で見るな。
くそっ、お前ら普段は言い争いばかりしてるのに、こんな時だけ結託してるんじゃねぇ。
ここは話題を変えよう……。
「それで実花のやつはどうしたんだ?」
「お姉ちゃんは如月さんと一緒にお父……店長さんの暴露大会をやっています。ご飯も食べずに熱中してるみたいです」
「…………」
「私は話してたら、本人に会いたくなったので、抜け出してきました」
「…………」
「て、店長、よかったじゃないですか……? ふんっ、可愛い子に噂話をしてもらえて」
なんだその同情半分、拗ね半分の微妙な態度は……。俺が若い子に噂されて「こいつ喜んでるキッモ」とか思われてるんだろうか……。
「本当にそう思うか? いくら可愛くても、噂話をしてるのが、実花と如月だぞ? 綺麗な花には棘があるという言葉を体現してる奴らだぞ?」
「…………ご、ごめんなさい」
どうやら、今回は同情が勝ったらしい。素直に謝ってるんじゃねぇよ……。
『おーい、由衣、そっち手が空いてるなら洗い物手伝ってくれ!』
「あ、あはは……麻依さんが呼んでるので、わ、私、洗い物を手伝ってきますね。混んだら呼んでください」
あいつ逃げやがった……俺を励ましてくれよ……。
はぁ……後で実花をとっちにめて何を話していたか聞き出そう……如月に弱みを握られると思うと胃が痛くなるからな……。
と、考えていると――。
『店長さん~~マーボーまだありますかぁ~~!』
その時、今朝聞いた声が耳に届いた。
声につられて入り口の方向を見ると、そこには今朝話した女生徒がいた。痩せたい、痩せたいと、言っていた方の子だ。
「おう、まだあるぞ。今朝一緒にいた相棒はどうした?」
「えっ、えっと……あの子はいいの!! カロリーを取っても太らない子なんて絶交なんだから! ……はぁ、世の中不公平だなぁ」
歯切れが悪くぷんぷんと怒る。体重は女子にとっては重大なことらしい……。
「はぁ、ここまで来たけど、どうしようかな……マーボーはやめてサラダだけにしようかな……はぁ」
「なんだよ。食ってけばいいのに。というか、そんなに太ってるように見えないぞ?」
「えっ!? ほ、本当にそう思う!?」
軽い気持ちで言ったのだが……想像以上にくいつかれた。にこにこと、笑顔になるが……女生徒が未来に視線を移すと、またしょんぼりとする。
「……やっぱ、私はもやしだけでいーや、もやし盛りください~~」
「そんなメニューねぇよ……」
未来と比べるのはどうかと思う。こいつら……モデル体系だし。
ん……? なんか未来がこっちを見てる……というか、睨んでる。
「…………随分仲がよさそうですね…………」
「…………」
あっ……これめんどうなやつだ……。な、なんだ……? 父親がJKと話したらいけないのか……? き、気持ち悪かったか?
「あれ? 竜胆さんもこれからご飯? もやし盛りを食べるの?」
……だから、そんなメニューはねぇ。
「なんだ? お前ら知り合いなのか?」
「うん! クラスメイトなんです~~。殆ど話たことないけど~~。うん…………びっくりするくらい腰細いから羨ましい……」
「おい、なんか私怨入ってるだろ……そんな親の仇みたいな目で人の腰を見るなよ」
「細いのに……おっぱいあるし~~……はぁ」
「…………『熊田』さん、お父……店長さんとはよく話すんですか?』
おい、クラスメイトの前でお父さんはマジでやめろ。
「ん? ふっふ~~ん、そうだねぇ~~。私と店長さんって超仲がいいからっ!」
自慢気に適当なこと言うんじゃねぇ! 名前すら知らなかった仲だろ! 熊田って初めて知ったわ……。
「…………」
俺は嫌な予感が胸中うずまくのを感じる……。未来は一見いつも無表情だが……俺にはわかる。今……こいつかなり不機嫌だ。
いつもの未来なら、敵意むき出しで怒ってると思う……だけど、俺らの関係を言う訳にいかないから、無理やりうちに秘めている感じだ。
そして……熊田さんはそれにびっくりするぐらい気がついてない。
「そうだぁ~~! 竜胆さん~~。一緒にご飯食べようよ! 店長さん!! マーボー! ください~~! ご飯大盛で!」
待て、お前今の未来と2人で飯食うの? 父親としてかなりお勧めできない。てか、お前、麻婆豆腐食っていいの? 大盛って……い、言いたいことだらけなんだけど……。
しかし、俺の動揺とは裏腹に……未来は……。
「いいですね……偶にはじっくり同級生とお話しするのもいいでしょう。そう……じっくりと……おとう……店長さん、私も麻婆豆腐定食を下さい。ご飯少な目で」
いつもの無表情で言う。いやぁ……実花と如月にも噂話されて、さらには未来と熊田にもこれからされるのか……男みょうりに尽きるな……はぁ。
俺は……考えるのをやめて、2人分の麻婆豆腐定食を用意することにした……。




