いつもの日常(2)
早朝からJKとお話ししてしまった後――。
……別に悪いことをしたわけではないんだが……この謎の罪悪感は何だろうか……?
まあ、でも今はそれよりも……。
「…………」
それから事務所でパソコンとにらめっこをして、お仕事をしている。
カタカタ……。
カタカタ……。
カタカタ……。
誰もいない事務所でひたすらデータを打ち込む。うむ……学食の店長になった今でも社畜時代と変わってないな……。
前も思ったことがあるけど……店長業務って経理時代の業務と同じようなところあるよな。原価計算とか人件費計算とか……。
まあ、あの時と比べてだいぶ人間らしい仕事をしているとは思うけど。主に勤務時間的な意味で……。
「………はぁ、飽きた……」
朝のほんの少しだけ出たやる気は何処へやら……。
開始30分でもう心が折れそうだ……早朝に1人で事務作業は精神的にくる……早く愛する従業員たちは来ないだろうか。
あと20分もすれば三沢が来るだろう。構ってもらおう……。
『ピピピピピピピピ――』
その時、俺のスマホが着信を知らせる。
(なんだ? 本社からの電話か……? また仕事なのか? 俺に仕事を押し付ける気なのか! ……って、被害妄想にふけっても仕方ないか……)
そんなことを考えながら、ポケットからスマホを取り出す――。
「…………………あはは」
新しいスマホを取り出すと思わず笑みがこぼれる。
……中年の親父がスマホを見てニヤニヤしているのだから、気持ち悪いと言われても何も言い返せないが……この件に関しては周りに何を言われてもいい、という気分だ。
おっと……早く出ねぇとな。
ん……? 葵ちゃん……? 今朝6時半だけど……どうしたんだろう?
「はいはい、どうした?」
俺が電話に出ると――。
『せんぱーい、ふふふっ、あーそーびーまーしょう』
俺は問答無用で電話を切った。
な、なんだ今の地獄の底から湧き出てきたような笑い声は。あいつの精神状態はどうなって――。
『ピピピピピピピピピピ――』
また鳴り始める俺のスマホ。そして、再び電話に出てあげる優しい優しい俺。
さ、さすがにさっきの声を聞いた後に無視はできない……。
『せんぱい……何で電話切るんですか……?』
今度はなんか拗ねたような声。
「いや……早朝にあんな電話がかかってきたらとりあえず切るだろ。着拒しなかっただけ感謝しろ」
『なんですかー、ぶーぶー! 可愛い後輩が電話をかけてあげたんですよー』
「テンション高いな……今から仕事か? 休み明けだと仕事するのつらいよなぁ」
『ふふふふふふふっふ、休み? 休みってなんですかぁ? じーだぶりゅー? 言葉がわからないですね。ふふふっふっ、今までお仕事だったんです。さらには今からもお仕事です。今は女のプライドを守るためにシャワーを浴びにお家に帰ってる最中です。ふふふふふふふふ』
「…………」
やべえ、聞いちゃいけないことを聞いた。
我が古巣ながら、相変わらずやべぇ…………。
『はぁ……せんぱーい、せんぱーい』
今度は一気にテンションが下がる葵ちゃん。甘えるような「聞いて聞いてお兄ちゃーん」みたいな感じだ。
俺も経験があるが……働きすぎるとテンションの浮き沈みが激しくなり、人にめっちゃ絡みたくなる。
……う、うーん、このまま葵ちゃんに構ってあげたいんだが……俺も仕事あるしな。
『……ああ、先輩、大丈夫です♪』
俺の心配を察知したのか葵ちゃんは明るいテンション戻る。
『私は働く全て者の味方です。先輩のお仕事の邪魔はしません』
お前は現代の神にでもなったつもりか?
『要件は1つです。せんぱーい、今週末飲みにいきましょうよーーーゆめゆめとか誘って』
「あー、今週末は体育祭なんだよ」
『ん……? 体育祭? あっ……もしかして、休日にお仕事ですか?』
何でちょっと嬉しそうなんだよ。社畜仲間を求めるんじゃねぇよ……。
俺はそんな哀れな、現役社畜に体育祭の件を簡単に説明した。
『へぇ、先輩がリレーにでるんですかぁ……それは面白そうです!!』
「当事者を前に面白がってるんじゃねぇよ……」
『いいじゃないですか、それじゃあ、私朝7時ぐらいに先輩の家に行きますね』
「はっ? お、お前も来るの?」
『はい、私とゆめゆめの2人分の席を用意してください。そんな面白そうなイベント参加しない手はないですよ。先輩のどんな無様な姿が見られるか今から楽しみです♪ おっと、そろそろ電話切りますね。それではお疲れ様でーす』
「おい、待てって――」
『プープープー』
電話から聞こえる哀愁を含んだ電子音。
あいつ言いたいことだけ言って、電話切りやがった。はぁ、どんだけ楽しみを求めてるんだよ……。
……そういう息抜きの仕方を教えたのは俺だけど……。
「まあ、葵ちゃんと明菜が来るのは問題ないか……」
2人共、実花未来の友達みたいなもんだし。
後で娘たちに言っておくか……。




