お悩み相談室(4)
「むすぅ……」
「…………」
いじけてるお姫様を横に歩くこと数分、目的地のバー『ムーン』に辿り着いた。
周りは相変わらず、ラブホテルが立ち並び、アングラ的な雰囲気がある。さらにそのバーは地下にあり、まだ14時過ぎだというのにバーへと続く階段は薄暗ぐらい。
ここに入るのはとても勇気いるな……。俺もアヤメの紹介じゃなければ絶対に入らない。
まあ、経営者が『あの人』なら問題ないが……少なくとも怪しい雰囲気があるから、若い女の子を連れてくる場所じゃない。
仕方ない。ここは別の機会に1人で来るとして、今日は別の店を探すか……。
「由衣、悪いんだけど、ここはやめとくか。知り合いの店なんだが……怪しすぎる」
俺は店か視線を外し、由衣の方を見る。
すると、由衣は真面目な表情でスマホを操作していた。
「ん? 何見てるんだ?」
「このお店の情報です。ネットの評価を見る限り……普通のバーっぽいですね。マスターが面倒見がよくていい店らしいです。それに店長の知り合いのお店なんですよね?」
……すぐにネットで調べるとか現代っ子だな。いや、俺らの世代でもやる人はいるか。俺はその辺さっぱりだけど……。
「ここに入りましょうよ。他のお店だと、店長、バーに連れて行ってくれなさそうだし……だめですか?」
ねだるような視線を送ってくる由衣。
娘たちの影響か、どうにも女の子のこういう表情には弱い。
まあ、いいか……。知り合いの店だしな。
俺はそう考えると、薄暗い階段を下りて店に入る。
店内は外のアングラ感はなく、落ち着いた雰囲気だ。カウンター内には多くの酒瓶が並んでおり、カウンターが10席、テーブル席が3つある、
まだ開店してないのか、店内には誰もいない。
「へぇ、お洒落で、いい雰囲気のバーですね」
由衣はさっきまでの不機嫌さが嘘のように楽しげに店内を見渡す。
はぁ、どうやらお姫様のご機嫌は取れたようだ……。
『あっ、すんません、店は6時からで――』
その時、店の奥から、白髪をワックスでオールバックにした初老の男が出てきた。懐かしい顔だ………。
顔を合わせるのは17年振り近い……。
「えっ? て、店長……?」
由衣が申し訳なさそうなマスターを見て、不安そうな口にする。知り合いの店って説明したからな。
だが、俺はちょっと感動してしまう……。
「はっ、あんたも老けたな」
「はっ? お前はいったい……」
17年とういう歳月の所為か俺のことを気が付いておらず、失礼な口調の俺をいぶかし気に見てくる。
その迷惑そうな視線は17年前のままだ。
「久しぶりだな……『キャッチマン』」
「……キャッチマンじゃと……お、お前、まさかあんときの子増か! あははは、」
キャッチマンの顔から警戒心が消えて、笑顔になる。最後に俺の家の前で別れた以来の再会だからな……数年経って、俺が大学生の時にふと思い出してキャッチマンの店に行ったが……既に退職してたかし……。
「ああ、アヤメと再会したと思ったら、今度はあんたとはな……」
「あはははっ、今日はおめぇーはまたとんでもねぇ美女を連れてやがるな。彼女か?」
「か、彼女……」
「違う……。あんまギャグが通じねぇんだから」
「あはは、それは悪かったのぅ!!」
「むぅ……確かに彼女ではないですが……」
不機嫌そうにそっぽを向く由衣。
……簡単に否定されるのもプライドに触るのか? めんどくせえ……。
「はぁ、見当違いなこと考えてそうですね……」
「えっ?」
「なんでもないです」
ど、どういうことなんだろうか……。勘違いしても……はぁ、そんな歳でもねぇか。
「マスターさん、営業時間って18時からですよね? また時間になったら――」
「かまわんかまわん、お前らなら、営業したる」
「えっ? で、でも……」
「いいのか?」
「ああ! アヤメからお前が来たら世話してやれって言われてるしな!」
キャッチマンはニカッと笑う。
その笑顔を見ていると17年前の思い出が脳裏に思い浮かんできた。




