とある夢のある休日
同時刻、午後14時――。
夢野明菜はパソコンで動画の編集作業をしていた。
最初は自分が映っている動画を見るのは、自分に自信がない明菜にとって正直苦痛だったが……人間とは不思議な物で今ではすっかり仕事ととして定着していて馴れた。
(社畜の心ってすごいですよね……今度義孝さんとこの辺についてお話したいです)
そんなことを頭の隅で考えているうちに編集作業はひと段落し、あとは動画投稿サイトにアップロードすれば完了だ。明菜が使っているパソコンはそこまで最新のスペックとは言えないのでどうしてもこの作業には時間がかかってしまう。
「はぁ……お金も貯まってきたし、そろそろ買い替え時ですかねぇ……」
明菜はため息をつきながらベッドに倒れ込む。今日は早朝、日が昇る頃から休みなく作業していたため、さすがに疲れが溜まっていた。
ベッドに寝転がると眠気が押し寄せてくる……そしてうとうとした頭の所為か、考えはあらぬ方向に向かっていく……。
「でも、貯金はした方がいいし……け、結婚資金は多い方がいいし……だ、だって、向こうは高校生のお子さんがいるわけだし……大学には通わせてあげたいし……免許だって取らせてあげたいし……えへへ」
明菜はぬいぐるみを胸に抱きながら身悶える。
そんな妄想、もとい構想はいくらしても楽しかった。
ちなみに義孝とは結婚の約束どころか、付き合ってすらいない……明菜は気持ちを伝えられず、ずるずるここまで来てしまっていた……。
「はぁ……早く、気持ちを伝えないと……」
そうは頻繁に思うのだが、どうにも「振られたら話せなくる」というか考えが頭から離れず、その領域に踏み込めないでいた。
今の関係が続けばいい……でも、それ以上の関係にもなりたい。
まるで女子高生の考えだが……こればかりはどうにもならなかった
「はぁ、わがままなんですかねぇ。でも、早くしないと……義孝さんモテモテだから……みんな可愛いし。私なんか……」
ピンポーン。
そんなマイナス思考に陥っていると、不意に家のチャイムが鳴り響いた。
明菜はその音で眠気が吹き飛び、ベッドから身体を起こす。
「……はっ、ま、またマイナス思考になっていましたぁ。うん、前を向かないと。頑張れわたし」
明菜は自分に気合い入れると、玄関に向かい扉から覗き穴を見た。
するとそこには大きなダンボールを持ったアヤメが立っていた。
(あれ? アヤメちゃん? 何か約束してたっけ……?)
明菜はたいした警戒もなく、扉を開いた。
すると、アヤメの顔がぱああっと笑顔になる。
「こんにちは! 今ちょっといいでござるか?」
「ふふっ、こんにちは。いいよ、どうしたの? 『すごい荷物』だけど……」
「あー、これは……」
アヤメは困ったように笑いながら、持っていたダンボールを下ろすと、ドスっという音がなった。
そのことからかなり重さがあることがわかる。
アヤメの後ろには手に持っているダンボールの他に4つのダンボールが置かれており、どれも絆がかくれんぼ出来そうなぐらい大きい。
「あーっ、『おじさん』から送られてきたんでござるが……私料理しないから困ってて……」
「えっ?」
アヤメが持っていたダンボールを開く。
その中にはーー野菜類や缶詰、米など様々な食材が余すところなく入っていた。
そのどれもが質がよく、米など金色の袋に入っており、明らかに高そうだった。
「アヤメちゃん、こ、これって……もしかして後ろのダンボールも?」
「そ、そうでござる……我ながらすごい愛されっぷりでござるね。あはは……」
「おじさって……」
「ママの彼氏? なんだけど……はぁ、私もう子供じゃないのに……そういえば、お兄ちゃんにはおじさんの『お店』教えたけど、行ってくれたかな……」
「……そ、そうなんだ」
そう不安げに呟くアヤメだが……明菜には話が急展開過ぎてついていけなかった。
「それで急で悪いんだけど、この食品貰ってくれない! 捨てると化けて出てきそうでござる!」
「えっ!? こ、こんなにたくさん貰えないよぉ」
「そこをなんとか! 実はまだダンボールがあって! それはお兄ちゃんに押し付け……譲る予定でござる」
アヤメの目から色彩が消えていく……どうやら本当に困ってるようだ。
(で、でも、こんなに高そうなもの……)
「そ、それじゃあ、お金払うよ」
「だ、ダメでござる! そんなことできないよ」
(でも……あっ、そうだ!)
「なら、予定が合う時、うちにご飯食べに来ない?」
「えっ?」
「うん! 我ながらいいアイディアですぅ。どうかな?」
「いいの……?」
「もちろん! 今お腹減ってませんか? ふふっ何か作りますよ?」
「わーい! 明菜ちゃん大好きでござるー!」
アヤメは明菜に抱きついた。
(ふふっ、なんか妹ができたみたい……でも、アヤメちゃんが妹ということは義孝さんとわたしは……)
そんなことを考えると、顔が赤くなってしまう。
それを誤魔化すように明菜はダンボールを家に入れることにした。




