お悩み相談室(1)
時刻は午後2時――。俺と由衣は約束していた飯に向かっていた。
土曜日ということもあり駅前は賑わっていて、俺は地獄の縄跳びを潜り抜けた解放感から、ここ最近で一番テンションが高かった。
マジで……あの大縄跳び大会は酷かった……もう二度と大縄跳びは見たくないぐらいにはトラウマだ……くそっ、あの数時間で動物のものまねのレパートリーが増えてしまった……。
「おい、由衣! どこで飯食うか! 今日はパーティだ! レッツパーティィィ!」
「ふふっ、店長いきなり元気になりましたね」
「当たり前だ! 地獄からの生還者だぞ俺たちは!? さっき消費したカロリーを摂取しようぜ」
「あはは……太るのは嫌ですが……そう言いたい気持ちはわかります」
苦笑いして、俺に賛同する由衣。
10代の由衣でもあれを思い出したくないらしい……。
あれは体力を削るしな……。
ジャンプする度に腰やふくらはぎが痛くなってくるし……人間100回近くもジャンプすると息もかなり切れる。
そして何より重要なのが、心を折らない精神力だ。
大変大人げないが97回で新井が引っかかった時には、ついディープインパクトのものまねをさせてしまった。
いや、マジで……地獄だった。結局100回飛ぶのに数時間かかった……まあ、俺が度々休憩を要求したせいでもあるんだが……。
「おかげでいい酒が飲めそうだ……」
スポーツセンターに備えつけられたシャワーでさっぱりしたので、後は豪遊するだけだ……いや、俺も由衣の相談に乗るという大前提は忘れてないぞ?
でも……少しぐらいはしゃいでもバチは当たらないのではないだろうか……。
「…………」
そんなことを考えていると、由衣が複雑そうな顔をしているのが目に入った。何かを悩んでるような感じだ。
「ん? どうした? 何か気になることでもあるのか? 人生という名の社畜プレーに真理と極みを見出したか?」
「何をわけのわからないことを……い、いえ……絆を預けちゃって、私だけ……その……」
どうやら絆ちゃんを預けて俺と飯を食いに来たことを気にしてるようだ。
「お前なぁ……俺がイケメンなら罪悪感に苛まれる気持ちもわからんでもないけど、おっさんと飯を食いに来てるだけなら気にする必要ないだろ」
なんなら、由衣にとってただの罰ゲームだ。
「…………はぁ、店長って、時々すごく馬鹿ですよね」
「なんで、そこでただの悪口なんだよ……」
「いえ、本気でそう思うので……」
余計悪いわ。
「もうっ、店長は自分で思ってるより、素敵な人なんですから自信持ってくださいよ。その辺の人とは違いますよ」
どこか拗ねたように言う由衣。
素直に褒められてなんだか……不思議な感覚だな。いや、お世辞でも素直に嬉しい。
「…………」
「な、何ですか? 人の顔をマジマジと見て」
「いや……」
なんか素直に嬉しいと言うのは照れる……適当によいしょして、ごまかしてしまおう。
とにかく褒めて誤魔化す。社畜の悪い癖の1つだ。
「いや、由衣ってめっちゃ美人だなぁーって思って。そんな美人とデートできるんだから、あとで絵日記にでもしようかと」
「なっ! な、何を言ってるんですか!? そ、そんな……」
由衣は顔を赤くして、手をぶんぶんと振る。よほど驚いたのか、若干ろれつも回っていない……。
初々しい反応だなぁ……俺も10代の時なら、さっきの由衣の言葉で慌てふためいていただろう。
可愛い反応だなぁ……。
「そ、その……そ、そ、そんなに見ないでください……い、いえ、見てもいいですよ? て、店長にび、美人と言われて悪い気はしないですし……」
ゆいは消え入りそうな声で何かを呟く。まあ、これ以上は可哀そうだな。
「まあ、話をまとめると、そんな悪いことしてる訳じゃないんだから、気にする必要もないってことだ」
絆ちゃんも喜んであいつらについて言ったしな。実花はともかく、未来は家族が絡まなければ常識人だから、問題ないだろう。
そんな俺考えが伝わったのか、由衣は優しく笑う。
「……そう……ですね……ふふっ、店長! 私、お洒落なバーに行ってみたいです!」
「ガキが何言ってるんだよ。3年早えよ」
「ふふっ、いいじゃないですか。お酒は我慢しますから。ノンアルコールカクテルとかあるんですよね?」
「それでも早えって」
他愛もないことを言い合いながら、飯を食う場所を話し合った。
そんな何気ない会話が不思議と楽しかった。




