運動不足を呪って(2)
10時過ぎーー。
あれから1時間ほど軽く? 走った俺たちはスポーツセンターの前に戻ってきていた。
軽く? 汗を流した由衣たちは清々しそうに木陰で涼んでいる。
しかし歳の差というものは時に残酷だ。こいつらが清々しい気分でも俺は当然ーー。
「ぜえぜえ……! くそっ! はぁはぁ、世の中腐ってやがる。こんな暗黒世界に誰がした! はぁはぁ、俺は休日という人類の神時間に何をやってるんだ。これじゃ……はぁはぁ、はっ! まさかお前ら全員社畜か!?」
「て、店長、い、いつも以上に錯乱してますね」
いつも以上ってなんだ。俺はいつも冷静で全てを見渡す男だ。
「おい! 音無失礼なこと言うんじゃねぇ! 兄貴は錯乱してるんじゃねぇ! ちょ、ちょっと現実を見てねぇだけだ!」
いや、お前も充分失礼だからな。
「おじちゃん! まんまをいじめちゃだめだよ!! むううううう!!」
いや、お前はなんか和む。
「……クソっ、俺の味方は誰もいねけじゃねか。あーあ、また世界は俺に牙をむくのか。誰も味方なんていない。この世は腐ってやがる!」
『味方なら私たちがいるよ!!!!』
俺がこの世の理不尽に絶望していると、その時背後からそんなひとりぼっちな俺を救う神の声が――。
振り向くとそこには――。
「わあああ、みかちゃんとみきちゃんだああ!」
「きずなん、ハロー! パパ! 私たちが来たからにもう安心だよ! もうゴーイングメリーゴーに乗った気持ちでいてよ!」
「ふぅ……あまり汗をかくのは好きではないんですが、お父さんのためです。私も本気を出す時がやって来たようです」
「今すぐ帰れ」
せっかく来てくれた娘たちに酷い言い草だとは思うが、こいつらがそんな自信満々の顔をしてるとろくなことがない。未来は無表情だけど。
「えええええ!? パパ酷いよ!! 私たちはパパを甘やかしに来たんだよ!」
……嫌な予感しかしねぇ。
「そうです。お父さんは、無理して運動する必要なんてありません。病気や怪我をしても無理やり治して見せます……お金の力で」
「さすがは未来の姉御! 半端ねぇ!」
お前は本当に俺、というか……家族が絡むとすぐ金を使おうとするよな……いつもは倹約が得意な子なのに……。
「みきちゃん! みきちゃん! きいてきいて! さっきおじちゃんに肩車してもらったの!」
「それはよかったですね。お父さんは優しいですから」
「うん! それでそれでね」
未来はしゃがみ込んで絆ちゃんと話し込む。未来って結構、絆ちゃんに懐かれてるんだよなぁ……未来も満更でもなさそうだし。うむ、いいことだ。
「テンチョーせっかく応援に来てくれたんだから、邪険に扱うもんじゃねぇって」
「それもそうだな……」
「パパ、水分補給する?」
「あっ、ナイス。丁度、喉が渇いてたんだ」
「はい。口開けてちゅーするから、私の唾液で水分補給」
「やっぱり帰れ!!」
何で疲れ果ててるのに、こんなに全力でツッこまなきゃいけないんだよ!
あーあ、由衣の瞳から光が消えていく……さっきまであんなに心配そうにしてくれたのに……。
「あいかわらず仲がいいですねぇー。すばらしい家族愛だとおもいます……」
「もっと感情を込めて話せや……」
「このゴミ」
「はっきり言えばいいってことじゃねぇよ!!」
「音無! 兄貴になんてこと言うんだ!」
たく、絆ちゃんが未来と話し込んで聞いてないからって、暴言吐きやがって……。
「ふんっ、さっ、続きをしましょう。あと30キロぐらい走りましょう」
か、勘弁してくれ……バレンタインの後に実花未来のダイエットに付き合わされて、人間の限界まで走ったことがあるけど、人間走ればいいってもんじゃない……マジで足腰ヘのダメージが半端ない……。
「いや、実花と未来も来たことだし、なんかスポーツでもしようぜ。センターにいろいろ設備があるらしい。勝負ごとの方が店長も燃えるだろ?」
「ああ、それはいいアイディアだな。闘争心は人の感覚を惑わせて……気が付いたら会社の傀儡になってるからな……」
「兄貴、深いっすね……勉強になるっす」
何も深くねぇよ……ただのこの世の真理だ!
まあ、何をやるにせよ、ただ走るよりもいいだろう……。




