体育祭に向けて(2)
それからさらに数時間後の17時過ぎ。
俺は事務所でパソコンの前に向かっていた。
大量の片付けもひと段落し、今日はパーティもないので、後は明日の発注をちゃちゃっと済ませてしまえば18時には帰れそうだ。
おおなんと素晴らしいホワイト会社生活……っと、思ったが冷静に考えると、俺今日朝の6時から出勤しているので、休憩時間を抜いてもばっちりサービス残業していた。
「……この世界は狂ってやがる。俺が復讐して世界に呪いを振りまいてやる」
「店長……事務所で物騒なことを呟かないでくださいって前に言ったじゃないですか……」
その時、業務を終えて、着替え終わった由衣が事務所に顔を出してきた。
うちの現場の女子更衣室と事務所は離れているので、何か用があって来たのだろうか……? さっき着替える前にお疲れ様の挨拶は済ませたし……。
「うっせえ、これが俺なので大目に見てくれ」
「かっこいいこと言って誤魔化さないでくださいよ……」
俺の今の言葉かっこよかったか?
「それで? お前はなんか用か? 言っておくけど、これ以上残業はさせないぞ?」
「わ、わかってますよ……そ、そうではなくて」
由衣のやつもじもじして何かを言いづらそうにしてるが……。
ん? そういえば私服がいつもよりも気合が入ってる気がする……。
春を思わせる爽やかな薄手のピンクのガーディガンに、青を基調にしたスカート。ハーフである由衣のかっこよさと色っぽさを際立たせている。
さらには金髪はいつも以上につやつやで、癖毛1つない。
うむ。娘たちに鈍感、鈍感と言われている俺でもさすがにここまでのお膳立てがあれば言われなくてもわかる。
それは――。
「今日デートか? なんだよファッションチェックして欲しいなら欲しいって素直に言えって――」
「違います」
さすがジェントルマン。ナイス察しの良さ……と、思ったのは俺だけのようだった。
……由衣は俺の言葉を聞いてから、段々と表情が冷めて無表情になり、視線はゴミを見る目だ……。
「違います」
に、2度も言わなくてもいいって……えっと、そうなると……。
さっぱりわからん……図星をつかれて照れているという雰囲気でもなさそうだしな。
でも、俺もいい歳なのでこういう時の対処法は心得ている。ふっ、長いこと風俗に行ってると、知らずに地雷を踏みぬくこともあるからな。
こういう時は……。
「す、すまん。いつもより私服が綺麗で可愛かったかったからつい……」
とりあえず、申し訳なそうに褒める。
効果は抜群のようで……由衣の顔がみるみる赤くなっていき、満更でもなさそうに鼻を鳴らす。
「ふんっ、まあ、褒められるのは悪気分はしませんね。さっきの言葉は忘れてあげます」
こっちに視線を向けずに強がる由衣。
……何この萌えキャラは……。
「まあ、デートじゃなくてよかった」
「えっ? て、店長それってどういう……」
「こんな美人とデートをする奴がいるのに、俺がサービス残業とかまた世を呪いそうだ」
「あっ……そういう意味ですか。まあ、美人と言ってくれたのでよしとします」
「それはよかった。また地雷を踏み抜いた思った。それで? 本当に私服を見せびらかしただけか?」
由衣は俺の言葉を聞くとまた視線を逸らし、何かを誤魔化すように口を開く。
「え、ええ。この服、新しく買ったので。絆の服も新しく買ってお揃いにして……それで、『明日』なんですけど」
「明日か……」
明日は土曜日で休みだが、従業員で体育祭の練習をすることになっている。
たくっ、なんで貴重な休み練習に使わなければならないんだ……せっかく休日出勤ないのに。
だが、いきなり全力で走ると身体壊しそうだしな……歳はとりたくない。
「そ、それで……そ、そのあとご飯にでも行きませんか?」
「えっ?」
「え、えっと、店長に相談が……」
由衣は明後日方向を見ながらそんなことをもごもご言う。うーん、この歳で母をやってるんだから、色々悩み事があるのか……。
「よし、なら絆ちゃんはうちに娘たちに任せておけ。そうすれば2人で話せるだろ」
「ふ、2人っきり!?」
「あ、あれ? あんまり絆ちゃんに聞かせたくないのかと思ったんだが……わ、悪い、そうか……」
2人っきりはまずかったか……言われれば前の水着を買ったデート? 以来だしな。
なら、新井か、三沢も呼んで……。
「い、いえ! 2人っきりの方が助かります! 2人っきりの方が!」
「お、おう……」
勢いよく詰め寄ってくる由衣。か、顔が近いっす。
まあ、本人がいいなら俺的には構わないんだけど……冷静に考えたら、由衣と2人で食事って未来が怒るかな。これ。
あいつ由衣と仲が悪いようないいような微妙な関係だしなぁ。




