体育祭に向けて(1)
それから数時間後――。
昼の営業が終わり、俺は学食で従業員である三沢、由衣、新井と共に賄い料理に舌鼓をうっていた。
うむ。今日も売り上げが好調だったので、心なしか飯も美味く感じる。
今日のメニューは定食で余ったから揚げと、中華スープに三沢があまり食材で作ったホイコーロー、さらに三沢秘伝の――。
「おうおう、あたし特製の大根の漬物もあるからな。お替りもあるから言ってくれ」
三沢が自信満々で、賄いが置かれているテーブルにどんっと漬物が入った壺を置く。三沢がフタを開け、ぬかの中から大根が姿を現す。
程よく、漬かっていて、酒にもご飯にも合いそうだが……。
「みんな食うよな。今さっと下処理してくるぜ」
「お前、明らかに私物じゃねぇか……まあ、美味そうだから目をつむろう。俺多めで頼む」
「おっ、さっすがテンチョー話せるじゃねぇか」
「ふふっ、店長は従業員に優しいですよね。面倒見もいいし……くすっ」
由衣が笑顔で微笑みかけてくる。俺は自分の欲望に忠実なだけだっての。
……由衣、なんか最初の頃に比べて、柔らかくなったよな……初めて会った時に面接でブチギレてた社会不適合者とは思えねぇ……。
今思えば俺よく採用したよな……。
「俺って器でかいよな……鋼の精神力と言っても言い過ぎじゃない……」
「て、店長、私の顔を見つめてどうしたんですか……?」
「いや、誰かさんは昔やんちゃだったなぁーっと、思って」
「そ、それは……と、というか、自分で器が大きいとか、普通言いますか?」
俺の言いたいことを察したのか、由衣は恥ずかしそうにジト目でこちらを見る。
まあ、そんな反応も今だと可愛く思えてくる。
だが、そんな由衣の反応を好ましく思わないのが、俺を最強にリスペクトする新井だ。
「はぁっ、音無、何言ってやがる。兄貴ぐらいの器があれば、海賊にだって飯を分け与えるぜ! 例えその後に大船団に責められても毅然に立ち向かうんだぜ!」
「そ、そうですか……? す、すごいですね……」
由衣のやつ……意味わからなくてドン引きしてるじゃねぇか……さすが新井。
ネタがわかりにくい……というか、新井のやつって、こんなチンピラみたいな性格なのに漫画とか大好きだよな……。
まあ、2人が言い合うのはいつものことだから放っておけばいいか。
それよりも、今朝の件でこいつらに相談があるんだった。
「なあ、お前らに相談があるんだけどいいか?」
「ん? なんだよ改まって」
「わ、私にできることなら、気軽に言って下さい」
「はぁ、何をイキってるんだが、この雌犬が。兄貴にそこまで媚を売りたいか」
「な、何を言ってるんですか。わ、私は別に……店長に媚を売りたい訳じゃ……」
「俺様は売りたいね!!!」
「ふふふふっ、新井さん、ぶっ飛ばしますよ?」
「…………」
し、職場でも話が進まない……あれ? もしかして俺ってものすごい苦労人なのでは?
家でも職場でもボケの嵐にさらされている。
まあ、俺も結構ボケるから、俺もいけないとは思うのだけど。
(いいや……とっとと、事情を説明しよう。まだ体育祭営業の詳細はきてないけど、学園祭と同じく、通常営業と屋台の合わせ営業だと休憩時間すらないからな……ヘルプを呼ぶことを前提に相談しよう)
そして――。
俺が事情を説明すると、由衣と新井はやる気満々といった感じで、目を輝かせている。
「任せてください店長。ヘルプなんて呼ぶ必要ありません! 未来の肩を持つのは癪ですが、3時間は店長が休憩できるように頑張ります」
「ふっ、音無、恰好つけてるんじゃねぇよ。兄貴は俺が栄光のロード導くっす」
そして、三沢はそんな二人を見て苦笑いを漏らす。なんか……「あちゃー、やっちまったぜ」みたいな反応だ。
「三沢、どうかしたのか?」
「い、いや……さっき生名から電話があってな。店長、営業で忙しそうだったから、あたしが内容を聞いたんだけど……体育祭は屋台の営業だけでいいらしいぞ? この学校の体育祭は家族で弁当を食うのが伝統なんだと」
……なんだその小学生みたいな伝統は……でも、それなら楽勝だな。
しかし、三沢の顔からまだ苦笑いが抜けない……。
「ま、待て! 言わなくていい! なんか俺の社畜センサーが危険だと訴えている!! 俺は会社には屈しな――」
「あぁー、諦めろ店長。そんなに悪い話でもない。単に……あたしらに体育祭の競技の1つ、『男女混合リレー』に出て欲しいんだってよ」
「「「…………はい?」」」
見事に三沢以外の声が重なる。
待て……俺はお前の言ってることが理解できない……ま、待て、なんで俺らが高校生にまじって体育祭に出るんだよ……えっ? これマジなの?




