慌ただしい朝
平日の金曜日の朝。川島家のリビングにて――。
バレンタインの慌ただしい日から約2か月後の4月中旬。
季節は冬から春に変わり、気温は段々と暖かくなっていた。そんな中で大きな変化といえば、娘たちが進級したことだろうか。
高校1年から2年になった。
周りから見れば小さな変化なのかもしれないが……俺は子供の成長というのは早いということを感じた。
と……いうのも最近2人の仕草が急に大人っぽくなった気がする。
それに伴い、妙に色気づいていた。実の娘とはいえ、初めて会ったのは去年だし、ルックスもいいので、向こうから誘惑してくるのは勘弁して貰いたい。
こんな風に……。
「パパ~~いってきますのちゅーしようよ~~」
「お父さん、私も……私もお願いします……ディープなのもので……」
「てめぇら、朝っぱら何言ってんだよ! 仕事、遅刻しそうなんだよ!」
そんな、やり取りも、もう定番になりつつあるな……。
2人とも発育がかなりいいんだから……朝っぱらから抱きつかないで欲しい……後ろから2人がかりで抱きつかれているので、胸とか太ももとかの感触が伝わってくる。
「たくっ、いいから離せ。俺は会社の奴隷の如く、働きまくって、社畜という名の神になるんだ」
「パパ、また意味わからないこと言ってるねぇ~。もうしょうがないんだからっ」
「お前だけには言われたくねぇよ。そういう会話を心から愛する性格だろうが」
「いやぁ~パパに褒められると嬉しくなっちゃうなぁ」
まずい。娘なのに意志相通ができていない感がすごい。
くっ、嬉しそうにニコニコしやがって、俺の反応見て楽しんでやがるな……。
「あの……お父さん……」
そんな会話をしていると、未来が何かを期待するような視線をこちらに向けてくる。未来はいつもの無表情だが、いつも楽しくバカ騒ぎしながら生活していたおかげか、俺はだいぶ未来の感情が前よりもわかるようになっていた。
「あっ……お父さん、ゴールデンウィーク明けに体育祭があるんですが……」
「ああ……仕事でもらった予定表に書いてあったな……」
「あの、お父さんに来て欲しいんですけど……」
5月に体育祭なんて珍しい気がするなぁ……そういやあ、未来たちも去年の6月に転校したわけだから、初めての体育祭なのか……。
でもなぁ……。
「あっ! 私もパパに見てほしい! 私が大活躍する輝かしい姿を!」
「お姉ちゃん、運動神経いいから羨ましいです……私もお父さんに格好いい姿を見せたいのに……でも、足の速さは自信がある」
「にひひ、私も自信あるよ。前の学校では『追いはぎジャッカル』の異名で呼ばれてたんだから」
お前、それ馬鹿にされてたか、怖がられてたかのどっちかだろ……。
って、それよりも2人に言わなきゃいけないことがあるんだった……。
「わ、悪い、その日は仕事なんだ……学園祭の時みたいに。だから、お前らの競技の時に抜け出すのは難しいと思う……」
「えっ?」
「そ、そんな…………」
この世の全てに絶望をした顔でこちらを見つめてくる。実花の俺に絡ませた腕の力が強くなる……ってか、締め付けてないかこれ!? 相変わらず、み、実花力強えええ!
「ぱ、パパ何とかならないの!?」
「わ、わかった! 話聞くから!! まずは力を弱めろ!?」
骨がミシミシ言ってる気がする!? このままだと身体が面白い形になりそうだ!
俺の必死さが伝わったのか、実花は渋々といった感じで力弱める。
(た、助かった……)
そして未来は無表情で俺の顔をジッと見つめてくる。
感情的になっている実花とは正反対で、その顔は冷静そうだが……どこか冷たさがある。
「お父さん……最近休日出勤多くないですか……?」
「ああ……言われてみれば……」
最近は他の現場のヘルプだったり、卒業式の臨時営業だったり、最近休日が潰れることが多くなってるな……。
俺も生名さんに文句は言ってるが……『休日手当が出る』と、言われると文句も言えなくなってしまう……。
「で、でも、休日手当が出るんだぞ! 休日手当! 葵ちゃんが聞いたら、泣きながら飲み代をせがんでくるぞ!」
「うわぁ……ぱ、パパ、社畜心を見事に利用されてるね……」
お前、ドン引きしてるんじゃねぇ。俺もそう思うが……社畜の性根はそう簡単に変わらない。
「お父さん……お父さんの会社の役員のクビを何人か飛ばしましょう」
「本気でやめろや……」
明らかにやっちゃいけないラインを越えてるだろ!?
俺が務めてる会社は爺さんの持ち物らしいからな。未来が頼めば実行できるのが非常に性質が悪い。まあ、でも実際に未来はそんなことを本当にしないともうが……たぶん。
「……はい……お父さんがそう言うなら……」
「ちぇー、パパにも参加してもらいたかったなぁー」
がっくりと肩を落とす未来と実花……罪悪感がわいてくる……。
はぁ、仕方ない。
「ちょっと、従業員たちに相談してみるか。休憩時間を調整すればお前たちの競技時間に時間に合わせることも可能だろう。それかヘルプを呼ぶかだな」
「えっ!? ……えへへ、パパは私たちに甘いなぁ。えへへ」
「い、いいんですか……? ……やった」
「ああ、いつも休日出勤してるんだから、それぐらいの無茶を通しても……って! そうだ! 遅刻しちまうじゃねぇか!」
俺は重大なことを思い出して、慌てて娘たちを引きはがそうとすると、娘たちはさっきまで違い、機嫌よさそうに俺から離れた。
「はーい、パパ引き止めちゃってごめね~。ふふっ、いってらっしゃい!」
「ごめんなさい……お父さんいってらっしゃい」
「ああ、行ってくる!」
俺は娘たちに見送られながら、仕事場に向かった。
向かう途中、どうやってスケジュールを調整するかで頭がいっぱいだった。




