一夜明けて(1)
それから数時間後――。
俺と明菜、アヤメ、フレアさん、何故か来た葵ちゃん(ひどい)は夜通し飲み倒した影響で全員、明菜の家で死ぬように眠っていた。
やはり昨日はなんだかんだ言って疲れていたのだろう……みんなすやすやと泥の様に眠っている。
ちなみに俺はみんなが部屋で寝ているのに対して、1人キッチンで寝ている。正直帰れよ、とは思うが、帰ろうとしたら、葵ちゃんに裏切者扱いされたので、ここで寝ている。
(ふっ、わがままな奴め。まあ、日付が変わってから呼び出されたんだから、気持ちはわかる……でも、みんな無防備過ぎだとは思うけど……)
若い女の子たちが近くで眠っているのだから、眠られない……とか、あると思うのだが……あいにく俺はそこまで若くない。ドキドキ感よりも睡眠欲のが勝つ。
うむ。さすが俺……なんか悲しい。
(……ふぁぁぁ、今日の予定は娘たちを説教することぐらいだから、ゆっくり寝かせてもらおう)
俺がさらに深い眠りに入ろうとしていると――。
『先輩、先輩、起きてください……。先輩』
誰かが俺の身体を揺すっていた。
「ん? 葵ちゃん……? どうしたんだよ……?」
目を開けるとそこにはスーツ姿の葵ちゃんがいた。ちょっと前まで浴びるほど酒を飲んでいたせいか、顔色は酷く悪い。
今すぐベッドに叩き込みたいレベルだ。
「お前、大人しく寝とけよ」
時計を見るとまだ朝の8時半だ。日曜日ならもう少し寝ていても許される筈だ。
しかし、葵ちゃんにそんな事情は関係ないらしく、うんざりとして大きくため息を吐いた。
「はぁ、そうもいかないんですよ。私午後から出社なんで、そろそろ家に帰らないといけないんです」
「出社って……今日は日曜日だろ? 休日出勤か? 昨日も出勤で今日も出勤。そんな会社滅びちまえ」
「先輩の古巣ですよぉー」
葵ちゃんのジト目が痛い。そうだっけ?
すっかりクリーンに生まれ変わった気でいたわ。
「はぁ、葵ちゃんも大変だな……まあ、頑張れよ。あまりにも酷いようなら相談にのるから……もうあまりにも酷いか……」
「先輩……何普通に寝ようとしてるんですか……?」
「はっ? 休日なんだから寝るだろう?」
「…………日曜休みの会社の社員…………全員滅べばいい」
「…………」
色彩を失った目で何を言ってやがる。その理論だと人類の半分は吹き飛ぶぞ。
「はぁ、せんぱーい、そんな『こいつやべえ』みたいな目で見ないでください。これ半年前の先輩の口癖ですよ?」
「俺……そんなやべえ奴だったか……?」
思い返す……やべ、心当たりだらけだわ。
まあ、でも……今日仕事なら呼び出したのは悪かったな……。
「……あんな深夜に誘って悪かったな……」
「いえ、それは全然。あはは、楽しかったんでおっけーです。また誘ってください」
……睡眠時間を削っててでも遊ぶ。この心理を我がものとしてやがる。……お前は社畜社員の鏡だよ……うぅ、何か涙が。
「それで先輩、要件というのがですね。私を駅まで送ってください」
「えっ? めんどう。お休み」
可哀そうとは思うが俺の睡眠欲よりは扱いが下だ。
「寝ないでください! むぅぅ、いいじゃないですかぁー、お姫様のように駅まで送って下さいよぉー。『話』もあるんでぇー」
「……いじけんな」
はぁ、昨日はごまかしたけど、如月のこととか根ほり葉ほり聞かれると面倒なのだが……。
「そ、そうだ! 今起きて私を送るという大義名分があるんで、合法的にみんなの寝顔が見られますよ」
「何してるんだ。早く行くぞ」
俺は素早く身体を起こして、コートを取るために明菜たちが寝ているリビングに向かう。
これは仕方がない。コートを着ないと寒いし、それを取りに行くには明菜たちが寝ている部屋に行かなくてはならない。
そのせいで寝顔を観察してしまうのは不可抗力というものだ。
「あ、あはは、先輩、自分への言い訳済みました?」
「バッチリだ」
俺は呆れ顔の葵ちゃんを尻目に、そのまま部屋の扉を開けるーー。
そう、これは不可抗力なのだから問題ない!




