夢のバレンタイン(20)
「あたしと明菜様の出会いは1年前よ! それはもう運命的な出会いなの! それを教えてあげるから感謝しなさい!」
仰々しく語り始める秋村さん。もう自分に陶酔しきっているように……。
話を聞く覚悟をした俺だが、好きでもないやつが自慢気に語るのを黙って聞けるほどできた人間でもない。
(うん、ちゃちゃも会話を成立させる1つの社会スキルだろう)
……と、いう言い訳も完了し、俺は口を開く。
「へぇ、思ったよりも短い付き合いだな。1年そこそこでストーカーに発展するとか、さぞ、内容の濃い運命的な出会いがあったんだろうなぁー」
「くっ、そ、それは……あ、あれはあたしが階段から落ちて、足を捻挫して病院に行った時のこと……明菜様をひと目見て……」
「出会い方がしょぼい。何が運命的な出会いだよ……結局明菜……様の見た目だけじゃねえーか」
「い、いえ! 見た目だけではないし! 明菜様にほれ込んだのは衝撃的ことがあったからだし」
「なら、言ってみろよ。どんな風に衝撃的なことがあったんだよ? ふんっ、どうせ大したことないんだろ?」
吐き捨てるように、小馬鹿にするように言う。
効果は絶大のようで秋村さんは涙目でキッとこちら睨みつけてくる
我ながら、性格が悪いとは思うが、これはお悩み相談室ではなくて、秋村さんの心を折るのが目的なので、しょうがない。
多少の優越感があるのは否定しないが……。
「あ、明菜様に心奪われたのは……」
「奪われたのは?」
まあ、どうせ大したことない理由だろう。こいつ思い込み激しそうだしーー。
「病院の隣の喫茶店で1人でホールケーキを幸せそうに食べていたのが可愛いかったのよ!!!」
「…………」
「それも4つ!! しかも明菜様あたしを見つけると……」
『秋村さん、秋村さん、こっちでケーキ食べませんか? これあげますぅ♪ ふふ、医院長には内緒ですよ?』
「って、優しい言葉をかけてくれたの! まさに女神よ」
明菜、職場の隣で何やってるの?
待て待て、それはある意味衝撃的だ。俺も明菜ほどの美人がホールケーキ4つ食べてる現場に居合わせて、奢られたら、即惚れるぞ。
面白すぎて。
「くっ、さすが明菜様だ。ナチュラルに可愛い」
「ふっ、わかってるじゃないあんた! それに比べてあんたはーー」
秋村さんは俺が認めたことによりわかりやすく調子にのり、さらには俺のことを蔑んだ目で見てくる。
「女子高生を家に連れ込んでるのよね。この犯罪者!!!」
ま、待て! 犯罪者に犯罪者と罵られるのは我慢ならねえ! くっ、俺のことも調べたのか。
だ、だが、ここで俺の事情を持ち出すと、さらに話がややこしいことになるな。
ここは話を戻したいがーー。
「ふふ、クズよねあんた。女子高生にパパって呼ばせてるんだから。社会のゴミよ。あーあ、汚らわしい。実に汚らわしいわ」
「…………」
うーん、話題を変えるのを難しそうだな。
ここは気がすむまで言わせてやるか。親しい人間に悪口を言われるとすぐポッキリと心が折れる俺だが……こいつに言われる分にはダメージが少ない。たぶん。
まあ、大きな問題があるとすれば……。
『フレア、簡単に息の根を止めてはダメよ。あの女は拷問にかけて生きていることを後悔させなさいな。ああ……ここまで怒りを覚えたのは初めての経験ね』
『存じております。お嬢様、お任せください。義孝様への侮辱はこの国への侮辱です。その報いは受けさせます』
イヤフォンから流れてくるこの物騒な会話だ。
なんでいつ間にか三者通話になってるんだよ……。
はぁぁ、本当にこいつらの俺への愛はなんなんだ……俺それほどまでの人間か?
ま、まあ、好かれてるのは悪い気はしないが……愛の規模がデカすぎる。
「聞いてるの! この変態!!!」
「はいはい、聞いてるって。というか、あいつらは俺の家族だぞ」
「ふんっ、何が家族よ。あんたらが話してるところを見たことあるけど……ふっ傑作だったわ」
秋村さんは顔を歪めてニタリと笑う。
「パパ、お父さんって、呼ばせて気持ち悪かった」
「……」
「あんなの滑稽よ。あれは不恰好なただの『家族ごっこ』じゃない!!」
「…………か、家族ごっこ……」
秋村さんの言葉が胸に突き刺さった気がした。
他人からはそう見えるかのか……うむ……まあ、俺らそんなに似てないしな。
そうか……。
『不快ね……実に、実に不快だわ。フレア、二度とその口を開けないようにしなさいな』
『かしこまりました。お嬢様』
か、感傷に浸ってる場合じゃねぇ!!!
「ま、待て! 俺はいいからーー」
『……訂正して下さい』
その時、俺の言葉を遮る聞き慣れた声が聞こえた。
振り向くとそこには、今まで見たこともないぐらい怖い顔をした明菜が立っていた。




