夢のバレンタイン(12)
◇◇◇
コンビニでの騒動から少し経過し、そろそろ日付が変わろうかという時間。
俺と明菜は、明菜宅に戻り、飲み直していた……のだが。
「…………」
ペラ…………ペラ…………ペラ。
「…………」
今部屋に話し声などはなく、ひたすら本のページをめくる音がしていた。
まあ、明菜が真剣な表情でエロ本を読んでいるだけなんだけど。
重苦しい雰囲気だ……最初はページをめくるたびに顔を真っ赤にしたり、目を背けたり、目を見開いたり……見ていておもしろ……おほん、可愛らしかったので良かったのだが……。
「あ、明菜さん……?」
「義孝さん……申し訳ないですけど、あと少し時間をください…………あと少しで……何かを掴めそうなので」
えっ? お前は覚醒でもするの?
「…………なるほど、ファラチオはこういう。パイズリという技も……なるほど」
「…………」
これはなんの拷問だよ。明菜の様子から無意識なのはわかるけど……お願いだから、そのルックスで隠語を呟くのはやめてほしい。
例え、まるで真剣に小難しい参考書読んでいる風の雰囲気だでも、普段の明菜なら絶対に口にしない単語なので……ギャップがすごくて……本当にエロい。
『ピピピピピピピッ』
その時また俺のスマホが着信を知らせる。
どうしよう……また如月だ。というか、あいつ寝たんじゃなかったのか……?
はぁ、無視する訳にもいかなよな。
◇◇◇
同時刻ーー。
隣の川島家にてーー。
「…………」
「…………」
姉妹はリビングで重い空気の中、正座していた。
言うなれば、受験結果を見る瞬間ぐらい重い空気だ。
もっとも2人の態度は正反対だが……未来は怒りのオーラを存分に出しながら、テーブルに置いた『義孝へのチョコ』をジッと見つめている。
視線を逸らさずに瞬きは最低限に……。
実花はそんな様子を苦笑いをして見ている。
「あ、あの……未来ちゃん、ちょっといいでございましょうか?」
そんな重々しい空気に耐えられなくなったのか、実花がおずおずと話しかける。
「なんでしょうか……?」
「かれこれ1時間はその姿勢から動いていないから、妹が心配でございまして……」
「私は大丈夫です……それよりも、もうそろそろ2月14日が終わりますね。お父さんも夢野さんも大人です。なので日を越して遊ぶのは問題ないです。なので私は怒ってないです。ええ、怒ってないですよ」
「さ、さいですか……」
実花は無表情でチョコをジィーっと見つめてる妹に何も言うことができなかった。
(サプライズで手作りチョコも用意していたのが裏目に出たね……パパも帰ってこないし……と言うか、さっきから隣の部屋が妙に静かなのもきになる……)
実花がそんなことを考えていると未来はおもむろに立ち上がり、無表情でテーブルの周りをぐるぐると歩き始める。
「み、未来ちゃん……?」
その奇行に実花が思わず声を上げるが……どうやら未来には聞こえてないようで、ブツブツと何かを呟いていた。
「ここは今すぐに隣に乗り込むべきでしょうか? でも、邪魔はできないし……でも、こうして迷っているうちに手遅れになるかも。夢野さんじゃなくて、由衣相手ならすぐに乗り込むのに」
「…………」
(未来ちゃん可愛いなぁ。この嫉妬心がまたいいなぁ)
実花は苦笑いをこぼす。自分も明菜に対する嫉妬心がないわけではない……できることなら自分も義孝と一緒にいたい……でも、それ以上に義孝には自由でいて欲しい。
好きな人を自分で選んで……恋をして、人生を楽しく暮らして欲しい。
(まっ、誰とくっついても幸せになると思うけど。くすっ、だって私たちのパパだし)
ガチャーー。
その時、隣の部屋のドアを開く音がした。
その後に未来がピクッと反応する。義孝が帰ってくると思ったのだろうしかしーー。
しばらくたっても家には入ってこない。
「ん? パパどうしたんだろう? また買い出しかな?」
そしてそんなことを考えていると、窓から外を見た未来が不思議そうにつぶやく。
「お父さん、駅前の方に1人で走って行きますね……慌てた様子ですが……どうしたんでしょうか……?」
姉妹は事態がつめず互いに顔を見合わせて、首をかしげた。




