夢のバレンタイン(11)
◇◇◇
夜の10時半――。
今日、音無由衣は娘の絆と一緒に三沢の家に泊まることになっていた。絆を寝かしつけると由衣は広くて豪勢なリビングにある机に突っ伏し、うなだれていた。
家主の三沢と一緒に酒盛りをしていた……もっとも由衣が飲んでいるのはコーラだが……。
「はぁぁぁぁぁ……」
大きくため息を吐く。
頭には想い人である義孝のことが占めている……。結局プロの調理師の三沢の手を借りても由衣が思い描くようなチョコケーキは作れなかった……そのことと……今現在……明菜が義孝と2人で飲んでいる、ということが明菜の気持ちを重くさせていた。
「でかいため息だなぁ。あんたせっかく可愛いんだから、台無しだぞ?」
「そんなこと言われたって……はぁ、私も早くお酒が飲みたい……」
麻衣が用意してくれたコーラをちびちび飲みながらそんなことを呟く……この言葉は三沢と2人でいると最近口にすることが多くなっていた。
由衣は心からそう思う……なんだか、自分だけ子供で取り残されているような感覚が嫌だった……そして、何より……。
(私も店長と2人で美味しいお酒飲みたいなぁ……美味しい料理作ってふたりっきりで……はぁ、いいなぁ夢野さん……)
明菜や竜胆姉妹とは『互いに邪魔はしない』、という『約束』をしているので、明菜が想い人である義孝と2人で同じ部屋にいるとわかっていても乗り込むわけにはいかない……。
……本当の心情としては今すぐ乗り込みたい気持ちでいっぱいだが……。
「……もし、夢野さんと店長に何か『間違い』があったら……2人とも大人なのだし……はぁぁぁぁ……夢野さん美人で可愛いし……朴念仁の店長でもそんな人に言い寄られたら…はぁぁぁぁ」
「だから辛気臭い面するなって。それは『何度』も言っただろ? 丈夫だってテンチョーはあの実花未来と半年もあの狭いマンションに住んでで何もないんだぞ? 1日ぐらい飲んだぐらいへーきだって」
「そ、それは娘だから……」
「とは言っても娘と会ったのは半年前だし、とびっきりの美少女だ。それが性的アピールをしてくるんだから、男は断るのもつらいだろ。正直テンチョーの世間体を気にする心は尊敬に値するぜ」
「それはまぁ……」
由衣は義孝の性格を思い浮かべて……そっと胸をなでおろす……。
そうだ……自分が好きな人は酔った女性に手を出す男ではない……たぶん、きっと、おそらく。
「なんか泣きたくなってきた……麻衣さん、めんどくさい失恋女みたいに号泣していいですか……?」
「だから、テンチョーみたいなこと言うなよ……はぁ、変な影響受けてるな……だんだん似てきてる」
「…………」
由衣は、義孝と似ていると言われて、嬉しくなってる自分は重傷だと思った……。
「……はぁぁぁぁ、私もふたりっきりでバレンタイン過ごしたいなぁ…………」
「そんなに落ち込むなよ。そうだ……。チョコ、一応形になったんだし、明日テンチョーの家に私に行ったらどうだ? 月曜日を待つ必要もないだろ」
「…………ふ、ふーん」
麻衣の言葉に机にうつ伏していた由衣の肩がぴくっと反応する。由衣は興味なさそうなふりをしているが……傍から見ると「行きたくたてたまらない」のが、見え透いていた。
そんな由衣の恋する少女の姿を見て、三沢は小さく笑う。
「よしそれじゃあ、明日朝にテンチョーに連絡してみようぜ」
「ま、まあ……悪くない案です。えへへ」
由衣は義孝がチョコを受け取ってくれて、喜んでくれる姿を想像すると……さっきまで不安が少し和らいだ気がした……。




