夢のバレンタイン(10)
「おい、明菜……!」
「??? 義孝さん、そんなに慌ててどうしたんですか……?」
慌てた様子でコンビニから出た俺を、明菜は不思議そうな表情でこちらを見ている。
くっ、ストーカーは!?
『…………!!』
たったったった。
俺がレインコート姿の人の方を見ると、警戒されているのを察知したのか、すぐに走り去ってしまった……。
「あ……『秋村さん』……」
明菜はその走り去った人影に注目して、漏らすように声を出した。それは明菜に事前に聞いていた『心当たり』の名前だった……。『秋村優』、明菜を付け回してる奴だ。
聞いてた通り、身長高かったな……はぁ、どこで道を間違えたんだが……。
(これで……つけられてるのは確定したな)
「明菜、大丈夫か……?」
「え、ええ……義孝さんがすぐ来てくれましたから……」
安心したように息を吐く明菜……やっぱり、誰かに付け回されるというのは怖いのだろう。肩を小さく震わせている……。
「明菜、これで付けられてるのは確定した。警察に連絡した方がいいんじゃないか? いや、むしろ行こう……まあ、目撃しただけだから、そこまで親身に対応してくれるわけじゃないと思うけどな……」
「は、はい。そうですね……」
明菜は笑顔でそうは言うものの、言葉尻は固い……やはり知り合いとトラブルになるのは好まないのだろう……。
めんどくさいとかの感情はその言葉からは感じられず、純粋に相手のことを心配しているようだった……。
(ストーカー相手のことを心配するとか、すごいやつだよな明菜は)
「……明日、早朝に警察に相談してみようと思います」
「ああ、それがいい。なんなら、俺もついて行ってもいいから」
「えっ、い、いいんですか……?」
「ああ、俺も今相手を目撃したし、同じマンションに住んでるからな……事情説明ぐらいできるだろ」
「あ、ありがとうございます……こ、心強いです……」
明菜は嬉しそうにほほ笑む。まあ、ここまできたら最後まで付き合いたいしな……し、下心なんてちょっとしかないぞ?
「お兄ちゃん~~」
「あ……アヤメちゃん、ふふっ、相変わらず元気ですねぇ。義孝さんの会計の時に、店員さんをしてるのを見た時はびっくりしちゃいました」
その時、アヤメが店から出てきた。事情を知らないためか、いきなり走り出した俺に対して不機嫌そうに頬を膨らませてる。
「もうっ、いきなりどうしたでござるかぁ~」
「悪い、悪い……悪いついでに俺たちもう帰るわ」
これ以上明菜を連れまわすのもよくない……てか、軽く考えすぎてたかもな……夜にコンビニ来るにもしても、明菜をひとりにするべきじゃなかった……反省。
「なんか事情があるみたいでござるな。まあ、次合った時に聞かせてね? それじゃあ、お兄ちゃんはい」
アヤメは呆れた顔をして左手を俺の前に差し出した。何かをよこせという意思表示を感じる……。
「なんだ、小遣いが欲しいのか……? しょうがねぇな」
妹に甘い俺はすぐに財布を取りだす……傍から見れば援助交際をしているように見えるかもしれないが、俺に迷いはない。
妹に金を渡して何が悪い。
しかし、俺のあては外れたらしく、アヤメはさらに呆れた顔になる。
「お兄ちゃん、そうじゃないでござる。その大事そうに抱えてるエッチな本の代金払うでござる。1020円なり」
「あ、ああ……そのまま持ってきてしまった……なんかすまん」
俺ただの恥ずかしい奴じゃん。
(さっさっと払ってしまおう――)
しかし、俺が財布を取り出すと、明菜が俺の腕を掴む。
「わ、私が払います……!! 義孝さんは財布をしまって下さい!」
むっ、女にエロ本を奢ってもらうとか……いや、これは明菜の家に置くつもりだから、俺のじゃないのか……? でもなぁ……男としてなんかなぁ……。
俺が変なプライドの心配をしてると……横にいたアヤメが一歩前に出明菜に張り合う。
「むっ、それならアヤメが払うでござる。モテない兄の性欲の面倒を見るのは妹の役目でござる!!!!」
おい!!! 言い方!!!!
深夜にとんでもねぇことを叫んでるんじゃねぇぇ!!!
「あ、アヤメちゃんには負けられない……義孝さんの性欲を管理するのは私なんですぅ」
なんで明菜も変な対抗意識を燃やしてるんだよ! 俺本気にするぞ今の言葉!!
そうして……俺たちはストーカーと出会ったと思えないやり取りした。まあ、変に暗くなるよりはいいと思うけど……。
ちなみにエロ本の料金は俺が支払うことになった……。




