夢のバレンタイン(9)
「…………」
「…………ニヤニヤでござる。お兄ちゃんがおっぱいの本買ってるでござるううううううう!!!!」
「店内で騒いでるんじゃねぇえええええええええ!!!!」
「えへへ、お兄ちゃん、他にお客さんいなくてよかったね……? こんな恥ずかしい買い物しちゃって、このこのー」
本当に他の客がいなくてよかった……くそ、店員の顔を確認しなかったのが裏目に出た……。
「さてさてお兄ちゃんの趣味はどんなのかなぁー」
ちっ、お前……エロ本を前にしてるんだから「きゃー、恥ずかしいぃ」みたいな反応しろや。なんで全力で楽しんでるんだよ。
ちょっとは寒い中待っている明菜の恥じらいを見習え。
「お兄ちゃんの趣味は何でござるかなぁー」
アヤメはペラペラと俺が差し出したエロ本をめくる。あー、楽しそうにしちゃって……まぁ。昔の純粋でチャーハンが好きなアヤメちゃんは何処へ行ってしまったのだろう……。
……まあ、エロ本に興味を持つ歳になったっていうのは快感深いものがある気がする……アヤメももう、23らしいし……俺も歳を取るわけだ。
「…………」
酔ってる所為もあるか……なんか泣きそうになってきた……変なテンションだな……俺。
まあ、それも仕方ないか……なにせ。
「お兄ちゃん、拙者……Fカップなんだけど足りるでござるかぁ?」
目の前に真剣に馬鹿なことを言ってる奴がいるんだからな……。
お前は真顔で何言ってるんだよ……。
てか、お前もでけぇな……実花もFとか言ってたし、明菜はGだろ……? 最近の娘たちの発育はどうなってるんだよ……。
「……いや、でかい方が嬉しいけど……」
この発言を聞かれたら……俺は由衣に殺されるだろうな……。
「うわぁー、おにいちゃんはわたしのこと大好きなんだねっ! わたしもだーいすきー。えへへ……」
「……はぁ、そんなことはいいから会計してくれよ」
その気持ちは純粋に嬉しいんだけど……いつの時代も兄は妹に甘いものだ……ん? てか、今までエロ本のことで頭いっぱいで意識が回らなかったけど……こいつ――。
「お、お前なんでコンビニで働いてるんだ……? 前は結構な高給取りになったとか言ってなかったっけ……?」
数週間前に再開した時にそんなことを聞いた記憶がある。
まあ、あの時は、再開したのが嬉しすぎて、酒を浴びるほ飲んだからなぁ……正直あまり話した内容は覚えていなかったりするけど……。
「あ、その会社、不正してたから内部告発して、ドロドロになってクビになったでござる。えへへ、武士道の国、日本にもクズっているんでござる」
「…………笑顔で言うことじゃねぇ」
大ごとじゃねぇか……ま、マジで? アヤメはこんな嘘を吐く性格じゃないし……えっ? マジで……? エロ本なんか買ってる場合じゃねぇ!
「お前、大丈夫か? もっと稼げる仕事紹介してやる……お前のためなら爺さんの権力を使うのをためらいはない」
普段は爺さんの権力ってチート技みたいで使うのはばかられるが……可愛い妹のためなら、俺のちっぽけなプライドなど喜んで神にささげよう。
「あ、大丈夫、大丈夫でござる。次の仕事はもう決まってて、ここは繋ぎでござる」
「えっ……そうなのか?」
「うん! しかも……あっ、お兄ちゃんにはまだ内緒でござる! 明日チョコ持って行くから、その時に教えてあげるねっ!」
舌をチロっと出すアヤメ。
そう言うことならいいが……心配だ。こいつ今『身内』はいないらしいしな。力を貸せることなら貸したいが……。
「ねぇ、それよりお兄ちゃん、あれ明菜ちゃんだよね? 待たせたら駄目だよ?」
「あ、まあそうだな……」
アヤメに言われ外を見ると、明菜がソワソワしながらこちらを伺っている。「気になっているが……邪魔するのもなぁ……」っといった感じだ。そういえばこないだアヤメと明菜は飲んだって言ってたな。
俺も明菜を待たせるのはどうかと思うが……今回はあいつのエロ本欲が原因だしなぁ……。
「お兄ちゃん、デート中にエッチな本買うなんて天下無双でござるね」
微妙に意味が違う……。それにデートじゃねぇ。まあ、そろそろ行くか。アヤメとはどこかで時間を取ってゆっくり話すか……心配だし。
さて、明菜はこういうことで怒るタイプじゃないけど……巨乳のエロ本を手土産にすればご機嫌も取れるだろう……セクハラじゃないよなこれ?
「あれ……明菜ちゃん変な人に見られてる?」
「えっ……?」
アヤメの言葉で明菜の方を見ると……明菜の背後にはレインコートで全身を隠した、180センチ近い長身の人間がいた。
明菜はそのことに気がついていない。
その風貌はどこかの殺し屋みたいだがーー。
「あ…………!」
あいつストーカーに狙われてるんだった!!! まずい、助けねぇと!!!!
「お、お兄ちゃん!? まさか荒事でござるか!?」
俺はアヤメの驚く言葉を背にコンビニを飛び出した。




