夢のバレンタイン(7)
あれからまた数時間の時間が経過した。只今の時刻は夜10時。
俺と明菜はそれからさらに飲み続け、たわいもない会話に花を咲かせていた。社畜話、学生時代の話、娘の話、内容は様々だ。
どんな話題でも不思議と楽しく、酒を飲み、料理を食べながら過ごしていた。
そして……俺と明菜は唐突にこんな会話をした。
『えっ!? 明菜ってエロ本読んだことないのか? えっ……マジで!?』
『な、ないですよ……わたし、男兄妹もいなくて……親戚も女性の方ばかりですし……女子校、女子大ですし……そんなにいい物なんですかぁ?』
『女ばかりだと逆に見たりしてるイメージだが……あれを見たことないとか人生損してるぞ……男の場合は。俺はエロ本読んだことない男はお坊ちゃんかリア充のどちらかだと思うので、嫌悪している』
『真面目に何を言ってるんですかぁ……ふーん、それでは……義孝さんも見たことあるんですね……他の女の子の裸が載ったえっちな本を……』
『……まったく、見たことない。俺、本は太宰治しか読まないんだ』
『……もうぅ、すぐわかる嘘をつかないでくださいよぉ……読んだことがあるんですね? 毎日のように何十冊も読んでいるんですね……義孝さんの……えっち』
『待て、いわれのない冤罪だ。あーあ、こうやって冤罪っていうのが世に広まっていくだな。酷いなぁ……傷ついたなぁ……』
『むぅ、なら今から一緒に買いに行きましょう……! コンビニに売ってますよね?』
『…………へ?』
と、言うセクハラぎりぎり……というか、明菜が警察に駆けこめば俺が捕まりそうな会話が繰り広げられた。
そして俺たちはコンビニの前にいる。
やー酔っ払いは怖い。その場のテンションで行動を決めすぎだろう……というか、明菜って普段はおっとりほわほわしてるのに、酔うと行動的になるよなぁ。
俺が元凶とはいえ、エロ本を買いに来てるわけだし。うむ、そのテンション嫌いじゃない。
しかし、性格が変わると言っても限度があるようで……。
「……よ、義孝さんえっちな本ってどうやって買うんですか……? というか、私今とんでもないことをしているような気がするんですが……よりにもよって今日に……」
まあ、そう簡単に人間の性格は変わらん。根の部分では同じだ……コンビニまで来たはいいけど、どうしたらいいかわからずおろおろしてるし。
うむ。とても可愛らしい……この姿を見れただけでも暖かい部屋を飛び出して、クソ寒い外に出たかいがあるというものだ。
「むぅぅ、義孝さん聞いてますか……? わたし……とっても困ってますぅ……」
「ああ、聞いてる聞いてる。どうもこうも、売り場からエロ本をもってレジに持っていくだけだ」
「そ、そうですか……そうですよね……。普通に買い物をするだけですから、やましいことは何もないですよね……で、でも……よ、義孝さん、お手本を見せてくださいよぉ」
「えっ? な、なんで俺なんだよ」
「だ、だってぇ……わたしには難しいですよぉ……店員さん女の子みたいですしぃ」
「いや、明菜の場合男の方が買いずらいだろ……」
「それはそうですけどぉ……」
泣きそうな顔をするな。明菜言い出したことだろう……。
俺は別に買いに行こうとは言ってない。今の状況を楽しんでいるだけの中年だ。
(まあ、さすがにエロ本を買わせるのはやり過ぎか……ここは俺がちょっと過激なエロ本を買っきて明菜の反応を肴にお酒を楽しもう)
俺はクズ的思考をフル回転させて答えを出した。
「じゃあ、買ってくるわ」
「よ、よろしくお願いしますぅ……あ、なるべく、義孝さんの好みのものをお願いします。心から欲しいと思う、趣味が満たせるものを……勉強しますので」
「なんのだよ…………コンビニのエロ本コーナーにそこまで求めてやるなよ」
まあ、でも高校生でもないからな。今更エロ本の1冊2冊で騒ぎもしない。
店内に人はいないし、店員は金髪の女性店員が1人……女性なのがちと世間の目を気にする中年としてはちとつらいが、イージーミッションなのは変わらない。
ここはサッと、買ってこよう。
俺は軽い気持ちでコンビニに入った。




