夢のバレンタイン(6)
「考えても仕方ないか……」
俺は如月の言葉を疑問に思いながらも、軽く息を吐き、スマホをポケットにしまう。すると冷たい風が吹き、俺の身体を冷やす。
「寒い……とっとと中に……」
俺が部屋の中に入ろうとすると『とある物』が目につく。
それはーー。
「へぇ、でかいブラジャーだな……」
明菜の衣類と下着が今いるベランダに干されていた。こ、これに今まで気がつかなかったとか、男として一生の不覚。
「ふむ……なるほど、なるほど、ブラジャーを干してる位置は隣の建物のお陰で外からは死角なのか。なるほど、それで外に無防備に干してたんだな」
口調自体は冷静だが、内心結構動揺している。
俺の家は娘が2人が暮らしてる関係上、ブラジャーはよく目にする。
先日もこんなやりとりがあった。
『いや〜私大きくて、お店であんまり可愛いの売ってないんだよねぇ〜』
『くっ、私は普通に可愛いのも買えます……普通に……お父さん、これなんか可愛いと思いませんか?』
と、娘2人がブラジャーを見せつけてきた。
そんな娘のブラジャーを観察してきた俺が言い切る。
「これはでかい……」
もう、ハイリアクションができず、素に戻って悟りを開いてしまうぐらいには。うむ、人間とは神秘だ。
実花が前に言ってたけど、明菜ってGカップあるらしいからな……。
『よ、義孝さん……な、何を見てるんですか……!』
「…………!!!」
俺が明菜のブラジャーをじっくり観察していると、部屋から悲鳴にも近い声が聞こえてきた。
まずい……!!! カーテンが開いていた!!!
ガラッ!
明菜が慌てて強めに扉を開くと、俺の目の前にあった下着と衣類を自分の胸元に寄せる。
「す、すみません……わ、わたし、しまうの忘れてました……」
明菜は消え入りそうな声でつぶやく。耳まで真っ赤なのは酒のせいだけじゃない。
見るからに恥ずかしさで死にそうだった。初々しいしくて可愛い反応だが……明菜の様子を見ていると罪悪感が込み上げてくる
「わ、悪い……」
「い、いえ、わたしがしまうのを忘れたのがいけないんです。は、はぁ……今日ばたばたしてたから、つい忘れてしまって……」
もう穴があったら入りたいという心境っぽい。ここはさりげなくフォローしてあげるのが真の紳士というものではないか……?
「いや、そこまででかいのは風俗でしか見る機会はないからな。誇っていいと思うぞ」
どうやら俺もだいぶ混乱しているらしい。
俺は一体何を言っているんだ……? 控えめに言って死んだほうがいい。
「あ、ありがとうございます。その……よ、義孝さんは大きいのが好きなんですか……? わたし、自分の胸があまり好きじゃなくて……」
「えっ……ま、まあそうだな? 揉み応えがある方が……」
美女の前で性癖をさらけ出している変態がこちらです。
「…………」
「…………」
沈黙が痛い……明菜は何かを求めるような視線を俺にちらちらと投げかけてくる。お、俺は今どんな発言を求められてるんだ……?
「……ふっ、ふふっ」
混乱していると、明菜が突然笑い出す。
「ふふっ、義孝さんって本当にえっちですね。でも……救われた気がしました……」
「えっ? あ、ああ……どういたしまして?」
待て、なんでいい話風になってるんだ? 俺なんか気の利いた発言したっけ?
「ふふっ、おっぱい大きくて得しちゃいました」
「あ、ああ、男は好きだと思うぞ?」
俺がそういうと一転頬を膨らませる明菜。酔っているせいか、反応が子供っぽいような気がする。
「むぅ、そういう意見はいいんです。みんななんかどうでも……」
「ど、どうした? 俺なんか気に触ること言ったか?」
「ええ、傷つきました。だからーー今日は朝まで付き合ってくださいね?」
明菜は笑う。本当に楽しそうに。その笑顔は見ていて気持ちがよく、可愛くてーー俺は気がついたら明菜のお願いに頷いていた。




