夢のバレンタイン(4)
◇◇◇
俺と明菜のバレンタイン飲み会が始まって1時間が経過した。
人間は思い悩み、高い壁にぶち当たると、酒に逃げる生き物だ……特に俺は。
これだけ聞くとダメ人間に見えるかもしれないが考えてほしい……今俺の目の前には明菜が用意してくれた美味い料理、酒、さらには巨乳美女までいるんだぞ?
これで欲望にあらがう方が人間として終わっていると俺は思う。
まあ、俺が何が言いたいかというと……。
「よしたかさん! きてくらはい! 社畜というのは月の労働時間が400時間を超えないとりっぱにならないとおもうれす」
「明菜、その通りだ。あはははは、月に日って30日しかないのにな! 休みなしで1日10時間働いても届かないとか、マジでウケル!」
「ふふふふっ、時間の計算ができるなら、社畜なんてやってませんよぉ~。一度興味本意で時給計算をしてみたら、本当に落ち込みましたからぁ」
「それはしちゃいけない! 俺なんか小学生の肩叩き並みの時給だった時は暗黒面に落ちそうだった。あはははははは」
「ふふふふっ、おかしいですねぇ。ふふふふっ」
――と、この通り、わずか1時間でかなり酔っぱらっていた。ちなみに俺も明菜も1時間足らずでここまで泥酔するほど酒に弱くない。
おそらく、互いに緊張があり、酒にのまれてしまったのだろう……こういう飲み方よくない……。
まあ、今はこのバレンタインの変な空気で変に酔っぱらっているが……本来俺らは酒強いんだし、これ以上カオスにはならないだろう……たぶん。
……問題があるとすればまだ時間が夜7時を回ったところということだ。まだ夜は長い……家隣だから終電とか関係ないし……色っぽい展開になるかも……あ、でも、あんま遅くなると未来がここに乗り込んでくるか……。
(というか……明菜は俺のことをどう思っているのだろうか……1人でバレンタインに家に呼ばれたということは……嫌われてはないはず。むしろ悪くないんじゃないか……? でもなぁ……俺も夢を見る歳でもないし……)
「ねぇ……義孝さん……」
酒を飲みながらマイナス思考に入っていると、正面に座っていた筈の明菜が四つん這いでにじりよってきた。
……今日はよく四つん這いでにじり寄られる日だな……。
頬は赤く、瞳も潤んでいる……そして、四つん這いになっているせいで、服の隙間からふたつの山が見える……。ピンクの下着も……。
「えっ……ど、どうした……?」
「わ、わたし義孝さんに聞きたいことが……」
待て、動くな。動くたびに胸が揺れてる!
「あ、ああ、それは何でも聞いてくれて……」
「そうですか、ほっ……ん? あ……」
その時、明菜は俺の視線に気が付いたようで、元々赤かった顔がさらに赤くなる。
し、しまった! バレた!!
「え、えっと……す、すみません。わたしったらはしたなくて……」
明菜は目の端に涙を溜めて、消え入りそうな声で呟く。
いやいや、この程度ではしたなかったら、家の娘たちはどうなんの!? くっ、ここは俺の適当なことを言う口の出番か!
任せろ! この口八丁だけで社畜時代を生き残って来たんだからな!
「い、いや、そんなことないぞ? 明菜、エロいというのは人間最大のステータスだ。エロは世界を救うんだ。みんなエロが好きなんだ……!」
「…………」
俺は美女の家で何を力説しているのだろうか……明菜、キョトンしちゃってるし……。
「え、えっと……義孝さんも……そ、そのえっちなこと好きなんですか……?」
「えっ……あ、ああ」
「おっぱいもですか……? 大きいのが好きなんですか?」
「そりゃ……まあ」
これ何の拷問……?
「そうですか……ふふっ、そっか……くすっ、そっうですかぁ」
俺が戸惑っていると、明菜は嬉しそうに笑いながら、自分の胸を両手でなで始めた。待て、それとんでもなくエロい!
んんー、俺の魂の言葉が明菜の心に届いたのか……?
まあ、酔っ払いに正常な思考を求めて無駄なのかもしれないが……。
「いきなりご機嫌になったな……」
「いーえ、私は怒ってますよ? ふふっ、義孝さんってほんとうにえっちなんですから♪ さあ、もっと飲みましょう。私料理追加してきますね♪」
「あ、ああ……」
明菜はそう言うと、キッチンに向かって行った。
なんか、楽しそうだからいいか。
さて、俺も楽しまないと損だし、まだまだ飲みますか!
『ピピピピピピーーー』
その時俺のスマホが着信を知らせる。たくっ、誰だ? 気分良く飲んでるのに……。
「…………」
着信者を見て、夢見ごごちだった気分が現実に引き戻された気がした。
『如月望』
今あまり関係を持ちたくない人物だった。
これ……無視すると、あとが怖いよな……はぁ。




