夢のバレンタイン(2)
俺はそれから幸せな明菜による耳かきを堪能した。
外は暗くなりはじめ、時計を見ると夕方の6時を回っていた。
「はい♪ 綺麗になりました。ふふっ、なんか不思議な達成感がありました」
「わ、悪い。ありがとう……」
今は余韻に浸りながら、明菜の膝枕から離れたくない心境だ。今離れたら、次はこんないい思いなんていつできるかわからないからな……。
……明菜の膝枕とか、うちらの業界のだと、一時間で万は取れるぞ
「いえいえ、私も新鮮で楽しかったですから。そ、その……また機会があったら……そ、その、させてもらってもいいですか?」
「それは喜んで」
「やった……! や、約束ですからね……くすっ、楽しみだなぁ。いっぱいためといてくださいね?」
うむ。これは社交辞令でも嬉しい……。
明菜って……優しいし、変に擦れてないし、素直で可愛いし……それにエロい。本当にスペック高いよな……こんなお隣さんがいるなんてなぁ……。
「あ、あの……義孝さん……」
ん……? 明菜が何かを言いたそうにしてる……心なしか顔も赤いような……。
「どうかしたか……?」
「えっと……こ、こんなことを言うのは……おかしい女と思われるかもしれませんが……義孝さんにお願いが……」
「そんなに緊張しなくていいって。俺、娘たちのおかげでおかしい女には耐性ができてるからな。ちょっとやそっとじゃ、取り乱さないさ」
「ほ、本当ですかぁ……? じゃ、じゃあ……えっと……頭……なでて……いいですか……? よしよしって……」
明菜は消え入りそうな声でそんなことを呟く。恥ずかしいのかこっちに視線を合わせようとしてくれない。
「えっ……? そんなことでいいのか?」
ぶっちゃけ、娘たちと住むようになってから、感覚がおかしくなっている気がする。冷静に考えたら、美女に「頭をなでていいか?」なんて聞かれるのは異様なことだぞ。
「そ、そんなことではないですよぉ……男の人になでなでなんて……ほ、本当に変な女だと思ってませんか……? わ、わたし……とんでもないこと言ってますよね……はぁ」
明菜もその考えのようで、顔を赤くして、必死に首を振る。
なんというか反応が女の子らしい……そうだよ! これこそが真の大和撫子の反応だよ! もしこれが娘たちなら――。
『パパ! あたまをなでるついでに、お尻もなでていい?』
『お父さん……お尻、いい感触ですね……はぁはぁ、私興奮してきました……』
とか、言ってるはずだ。リアルに。
……あいつらは明日説教だな。何となく。
「よ、義孝さん……ど、どうですか……? わたしのわがまま聞いてもらえませんか?」
「……好きなだけどうぞ?」
明菜がどういう考えなのか謎で釈然としないが、断る理由はないしな……。
まあ、好きにさせよう……こっちは完全に役得だし。ただのご褒美だ。
「は、はい……! それでは……失礼しますね」
明菜はゆっくり俺の頭をなでる。優しくじっくりと……満面なく……。
「……ふふっ、わたし……なんか幸せな気分です。こんなに幸せでいいんでしょうか……くすっ、義孝さん可愛いです……」
「…………」
明菜の手は暖かく、気持ちいい……だが――。
(あ、明菜がやると……手つきがエロい……)
いや……明菜はただ俺の頭をなでているだけなのだが……その頬は赤くなり、さらに手はぎこちなく、一生懸命感が伝わってくるので……なんだかエロい気がする。
「ふふっ、楽しくなっちゃいました……も、もっと触れてもいいですか……? わたし――」
明菜はここで言葉を一度切り……。
「今日は勇気を出さなきゃ……」
俺に聞こえなぐらい小声で何かを呟いた。その顔には何かしらの決意が見えるようだった。
ま、まあ断る理由はないよな……うん、断る理由はない……これ以上触れられると変な気持ちになりそうだけど……。
俺はしばらく明菜のなでなでを堪能し……さらにもやもやとした気持ちになった。




