娘とデート(3)
店内は外装と同様高級感があり、ひと席ひと席がわりと広く、ゆったりと快適に食事を楽しむことができる。
まあ、白状すると俺は正直最初は乗り気ではなかった。そこまで甘いものが好きなわけでもないし、周りはほぼ女性客だ。男の俺としては楽しいという感情より……居づらさが勝つ。
だが……ケーキバイキングなんてめったにない経験だし……何より娘たちが俺のことを想って予約してくれたんだ。
そうなれば楽しむしかない。その結果――。
数十分後――。
「うぅぅ! パパ! 今私は幸せだよぉぉぉぉ」
「はい……お父さん、私もです……大好きな家族と美味しいケーキを食べられるなんて」
「あはは、食え食え! どうせいくら食べても値段は変わらないんだからなっ!」
俺たち親子はバイキングを心から堪能していた。
チョコレートフェアと言うだけあって、種類も豊富だ。
俺たちのテーブルにはガトーショコラ、ティラミス、エクレア、フォンダンショコラ、ブラウニー……等々、チョコレートケーキが所狭しと並べられていた。
ここまで多くのケーキが並んでいると、元から甘いものが大好きな娘たちはもちろんのこと、俺まで楽しくなってくる。
さすがは俺だ。社畜時代に養われた状況適合能力は健在だ。ビルに入った時のげんなりした態度だった俺とは別人のようだ……。
今めっちゃ楽しい。
「で、でも、こんなに食べると太りますね……はぁ、どうしよう」
「もうっ、未来ちゃん、今日はそういうこと言わないでよ~~」
「だ、だって……その、太ったら嫌われるかも……」
未来は無表情ながらもこちらにチラチラと視線を送ってくる。
そんな「お父さんに、嫌われたらどうしよう……」とういう、言葉が聞こえてくるようで、可愛いやつだ。
深く考えこんじゃって、まぁ。
「俺は気にしないぞ? というか、お前ら体の線が細いんだからもっと食った方がいいからな? まあ、一部は育ってるけどな……」
「あっ、パパ、今おっぱい見た? もうっ~えっちなんだから~」
自分の胸を両手で押さえながら、小悪魔的な表情をする実花に対して、俺はそれを鼻で笑う。
「なんだよ、見て何が悪い。歳を取ると胸を見たことがバレたぐらい恥ずかしくもなんともない」
「パパって没乳首のAVいくつかパソコンに入ってるよね? 好きなの?」
「それは恥ずかしい!!!」
待て! お前なんでそのAVのことを知っている! あれはパソコンの奥深くに封印してある秘宝だぞ! くっ、こうなったら、開き直るか。
こうなると大人はめんどくさいぞ。
「…………あ、あの……」
……俺がどう没乳首の素晴らしさを布教しようかと思っていると……未来がか細い声を上げる。
その声色には何かを期待する様な感情が込められている気がした。
「……お父さんは私が100キロになっても愛してくれますか?」
「いや、それは痩せろや。絶食しろ」
「……お父さんの嘘つき」
一気にテンションダウンする未来さん。いや、そこまでいくと、俺の趣味は最早関係ない。普通に病気とかが心配だ。
「未来ちゃん、未来ちゃん、とてもいい方法があるんだけど聞きたい? くすっ、聞きたいよね?」
「な、何ですか? お姉ちゃんがその笑顔をしてるとろくなことにならない気がしますが……」
「ケーキ1個につき10キロ走ればいいんだよ! そうすれば流石に太らないと思うよ〜」
「……なるほど」
「…………」
納得するなや。その理論に基づくとフルマラソンを2、3回することになるぞ?
「でも……私お姉ちゃんほど運動が得意じゃないし……」
「大丈夫、大丈夫、みんなで走れば一瞬で済むから」
「おい、一瞬では済まねえよ。物理法則を無視すんな……ていうか、みんな?」
凄まじく嫌な予感がする……ちなみに今俺が食べたケーキの個数は7個だ……もうフルマラソンを軽く超えている。
「ええ、みんなで走ればきっと楽しいよー。地獄にみんなでいこうよー」
地獄とか言うなや。
「お父さん……駄目ですか……?」
「…………」
そんな捨てられた子犬の様な目で見るな。俺は走らんぞ。
「お父さん……じぃぃぃ」
「ああ、パパ、誰かさんのせいで可愛い妹が悲しい思いをしちゃうなぁー。それに誰かさんも運動不足だから走った方がいい気がするなぁー」
「…………」
ま、まあ、社畜は身体が基本だし、適度な? 運動は必須だと思う。俺は社畜じゃないけど。
それに娘が太ることを気にして、この場を楽しめないのは心苦しい……。
「………………わ、わかった」
「ほ、本当ですか……? もう取り消しは聞かないよ?」
「ああ、もう大丈夫だ。よっしゃ! こうなったら今日だけで5キロは太ってやる。さっさと食って新しいの持ってくるぞ!」
「……ふふっ、はい。ありがとう……」
「おおー! 実花ちゃん、本気出しちゃうよー!」
そんなこんなで親子3人、おしゃべりをしながらケーキを1年分は食べ尽くす。
時間が終わる頃には、実花未来は終始楽しそうだったので、地獄のフルマラソンもたまには悪くない、そう思える様になっていた。




