夢の時間を待つ
◇◇◇
さらに一方その頃。午前10時過ぎ。
夢野明菜は少し遠出して品揃えのいいデパートの食材コーナーで頭を悩ませていた。
(……夜はせっかく義孝さんが来てくれるんだから……何を用意しましょうかぁ……はぁ……悩んじゃうなぁ……)
かれこれデパートの開店時間の9時から1時間は食材コーナーをさ迷っている……そのくせ手に持っている買い物カゴには何も入っていない……。
いつもなら「なんで買うものを決めてこなかったんだろう……」と、軽く落ち込む場面だが……今はそんな余裕すらない。
その理由は今日の義孝との飲み会が原因だ。
明菜はてっきり未来と実花も来るものとばかり考えていた。
しかし数日前に姉妹と話した時に――。
◇◇◇
『えええ! さ、さすが夢ちゃんとパパとのデートは邪魔できないって!! 私が夢ちゃんの立場なら邪魔者が来たら、すべてを賭けたカードじゃんけんをやらせるもん! エスポワール的な船に乗せて!』
『お姉ちゃんの言っていることは半分ぐらい意味がわかりませんが……。邪魔できないというのは同感です。私は自分がされて嫌な行為はしません……基本は。まあ、いいでしょう。私たちは私たちで昼間にお父さんとデートですから……デート、デートですから』
◇◇◇
とのことだった……。
明菜としては憧れの義孝とふたりっきりで、バレンタインの夜を過ごせると思うと……とても嬉しいような……今すぐ逃げ出したいような……複雑な気分だ。
(うぅ、いきなりふたりっきりなんて予想外過ぎるよぉ……ど、どうしたらいいんだろう……うぅ、お酒はいいものを揃えた方がいいよね……男の人だからお肉を多めに用意して……そ、それにチョコレートケーキも手作りしたいし……)
そんなことを頭で考えていると……どうすれば正解なのか本当にわからなくなってくる。
おろおろと売り場をウロウロしていると――。
「あれ……? ゆめゆめ? ど、どうしたの……?」
スーツ姿の葵とばったり出会う。
葵の手には特売のお弁当があった。
「あ、葵さん、どうしたんですか?」
「私はお昼を買いに来たんだけど……私の会社すぐそこだし……それより、ゆめゆめさあ、控えめに言って不審者みたいだったよ? あはは……まあ、朝早いからあんまり周りに人いないからいいけど……」
「た、助けて下さい……」
「えっ……!?」
葵は苦笑いを浮かべながら、明菜の行動を指摘するが……明菜にそれを受け入れる余裕はない。
たどたどしく事情を説明する……。
葵は最初は親身になって聞いていたが……次第にその頬が赤くなってくる。
「そ、それってゆめゆめ……」
「えっ? ど、どうかしましたか……?」
「だ、だって……ゆめゆめの部屋で2人でバレンタインを過ごすって……お酒やお肉よりもコンドームが必要なんじゃ……ない?」
「……こ、こんどーむ……? え……」
ぽかーんっとする明菜だが……。
次第に明菜も言葉の意味を理解して表情が赤くなっていく……。
「そ、そんな……で、でも、娘さんたちもいるから、ひ、避妊は大事だよね。お、大人のエチケットだし……で、でも、でも……わた、わたし、心の準備が……」
「お、落ち着きなよ……とりあえず……薬局でも……行く?」
「そ、そうですね……で、でも、こ、こんどーむなんか用意したら……義孝さんに嫌われるんじゃ……」
「大丈夫、大丈夫、それは。先輩は趣味が風俗通いだよ? その程度で引いたりなんかしないよ」
「ほ、本当ですか……? よかったですぅ……」
好きな人が風俗通いが趣味など、全然大丈夫ではないのだが……普段なら義孝のこの趣味には否定的な明菜だが……混乱している今は「経験があって頼もしい」と、自然に考えるほど感覚がおかしくなっていた。
「というか……メールで聞いてたことだけど、ゆめゆめが本当に『義孝さん』って呼んでるのにびっくりかな」
「あ、はい……! わ、わたし……その、頑張りました……」
恥ずかしそうにはにかむ明菜。
その可愛らしいを笑顔を見て、葵は呆れたように首をかしげる……。
「はぁ、本当にゆめゆめみたいな美女に好かれてるんだろう……先輩。ふしぎだなぁ……」
「えっ……今何か言いました?」
葵は何かをに小さく呟いたが、明菜には聞こえなかった。
そして葵は悪戯っぽく笑う。
「あはは、なんでもなーい。それよりコンドームは冗談? として、まだ出勤まで時間があるから、先輩が好きなワインの銘柄教えてあげるよ」
「え、えっ、あ、ありがとうございます……!」
そうしてふたりは食材コーナーを回り始める。
明菜は大好きな喜ぶ顔を想像しながら、葵のおススメ品を手に取っていった。
休み中、適当な更新時間ですみません……明日から平日更新に戻りますmm




